World Odyssey 地球一周旅行

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旅の日記
見たもの、乗ったもの、食べたもの…たくさんの驚きを写真と一緒にお伝えします。



▼PART45 2005.09.22 ゾウがキャンプにやってきた
>>ボツワナ オカバンゴ・デルタ



■オカバンゴ・デルタって?

エトーシャ国立公園をあとにした私たちは、ちょっと車を降りてザンビア3日間の旅をすませたあと、ボツワナに向かった。目指すはオカバンゴ・デルタという湿地帯だ。

オカバンゴ・デルタ。その響きがおもしろくてまず印象に残っていた場所だ。そして日本にいるころ、何度かテレビのドキュメンタリー番組で目にした場所だ。だが、実際どういうところなのか、なかなかイメージできなかった。

オカバンゴ・デルタは、砂漠ばかりのボツワナの地で唯一水で満たされた場所だ。ナミビアの北にあるアンゴラの山地で降った雨が、オカバンゴ川を通って1,430キロの旅をし、この地に流れ込む。

オカバンゴ川を通って運ばれた水はやがてボツワナの大地に染み込んでいく。オカバンゴ川は海に出ることのない内陸河川なのだ。そうしてできた湿地帯の面積1万5,000平方キロ。ちょうど岩手県と同じくらいの広さだ。デルタの西部分1/3ほどはモレミ・ゲーム・リザーブMoremi Game Reserveという保護区に指定されている。

この沼沢地は、200万年もの歳月をかけてオカバンゴ川が運んできたシルト(砂より細かく粘土より荒い沈泥のこと)でできているという。複雑に張り巡らされた水路の間には小さな島々。そんな場所だから、なかなか人間の開発の手が及ばない。だからこそオカバンゴ・デルタは今なお、動物たちのオアシスとして生き続けているのだ。

と、こんな話を聞いてもなかなかイメージしにくい。特に、どう楽しんだらいいのかとなるとさっぱりイメージが湧かない。湿地帯なら、セスナなどで上から眺めるだけなのだろうか。それとも船か何かで中に入っていけるのか?疑問だらけである。

私たちもそんなハテナマークいっぱいのまま、コピーさせてもらったガイドブックを読みつつオカバンゴ・デルタの玄関口マウンに入った。さっそくツアー会社やフライト会社などあちこちまわってみる。

オカバンゴ・デルタにも色々ある。保護区になっているエリア、西部に東部。昔からデルタとともに暮らしてきた集落を訪ねることもできるし、超ド級ラグジュアリーなバカンスを過ごすことのできるロッジもある。私たちの目がキラーンとなったのは、動物たちに会える野生地でキャンプ、というプランだ。

ガイドブックで紹介されているように、ここオカバンゴ・デルタの料金は何から何まで本当に高い。ロッジは1泊ン百ドルが当たり前だ。そんななかで、一番安い料金を提示しているのがガンズ・キャンプGunn'sCampというところだった。ガイドブックにはもう1ヶ所、そこそこの値段として紹介されているのだが、ガンズ・キャンプより200USドルも高い。2人で400USドルの追加。これはあり得ない……。

つまり私たちに選択肢は無かった。一番安いキャンプが私たちでギリギリ捻出できる価格なのだ。それ以上安いプランになると、動物たちのいないエリアでのキャンプになる。うーん、それならやっぱり高いお金を出してでも動物たちが暮らす野生地のど真ん中でキャンプをしたい。こんな経験はトーゼン、なかなかできるものではないのだ。

そんなわけで私たちはエイヤッとこの高額な料金に目をつぶって、オカバンゴ・デルタでのキャンプに参加することにした。



■ボツワナという国


オカバンゴ・デルタで実際にどう楽しむか、という話の前にボツワナについても少しご紹介しておこうと思う。

独立は1,966年。かつてはイギリス領だったそうだ。この国で特筆すべきはダイヤモンド。1,960年代後半に鉱脈が発見されてからというもの、ボツワナ経済はダイヤモンドにかなりの割合で依存してきているという。ボツワナは「お金持ち国」なのだそうだ。

たった10日弱の滞在しかしていないボツワナだが、私たちが通り過ぎてきた印象から見ると「お金持ち国」という印象は薄い(唯一感じたのは南アフリカ共和国の通貨よりボツワナの通貨の方が強かった、ということだけだ)。ボツワナにはジンバブエ、南アフリカ共和国と国境を接するエリアに都市が集中していて、私たちはそのエリアを通っていないのだからよけいに偏った印象だろう。だが私たちは、政府が整備すべき水道や電気すらない村をいくつも目にしてきた。その一方でオカバンゴ・デルタの町マウンのようにスーパー、ATM、インターネットカフェなど近代的な施設が集中しているエリアもある。

そして私たちは、政府の整備が及んでいないような内陸の砂漠に、突如として現れた「お金持ちの町」をいくつか見つけた。パラボラアンテナにソーラーシステムが設置された集合住宅、無意味な信号、近代的なスーパーマーケット、高級外車……。すぐ隣の村では、人々は共用井戸に水を汲みに行き、茅葺き屋根の家に住み、日が暮れたら火をおこすと言うのに。

そんな町で私たちは「Debswana」と書かれたバスを見た。これはボツワナ政府とダイヤモンド市場を一手に握っているデ・ビアス社が共同経営しているダイヤモンド会社なのだそうだ。おそらく。推測に過ぎないが、いくつか見かけた超不自然な「お金持ちな町」は、ダイヤモンド関連の産業がおこっている町なのだろう。そこに暮らす人々だけは、それなりの現金を手にしているように見える。

南アフリカ、ナミビアのように人種間の差が顕著に見られるというわけではないが、(現金があるかないかという点で)貧富の差がはっきり見える国だなあという印象を受けたものだ。

そんなちょっとダーク(?)な印象を受けるボツワナ。観光産業においては、オカバンゴ・デルタでの高水準な価格からもわかるように、「高くて良いもの」を提供できる観光地としてヨーロピアンの間で定着し成功をおさめているようだ。

先ほど少し触れたように、人口のほとんどは国の東端に集中している。そのせいもあるだろうが、ボツワナにある自然保護区の国土に占める割合は約17%。これは世界的にも高い数字なのだという。そして、他の南部アフリカの国々の国立公園の多くがそのエリアをフェンスで囲ってしまっているというのに、ボツワナにある国立公園や保護区には基本的にフェンスがない。例えば、ジンバブエ国境に近いチョベ国立公園、オカバンゴ・デルタのあるモレミ・ゲーム・リザーブとの間にはフェンスがないので、草食動物たちは季節移動をしているのだという。一部では野生動物の病気が家畜にうつらないよう、フェンスを設置してあるところもある。そんな場所では毎年フェンスを越えられなかったバッファローなどが多く死んでいるのだという。だが、一方で増え続ける家畜がオカバンゴ・デルタ内部に進出してきているのを食い止めているのも、皮肉なことにこのフェンスなのだという。

とまあ、ナミビアと同じくこんな程度でボツワナの何がわかるのかという感じだが、ボツワナという国は一筋縄ではいかない多面的な国だなあという印象を受ける。



■きらきら輝くデルタ


そしていよいよオカバンゴ・デルタへの旅が始まる。

私たちが向かうガンズ・キャンプは、インナー・デルタと言われるオカバンゴ・デルタ心臓部に位置している。モレミ・ゲーム・リザーブの南端にあたる。

キャンプまでの足はセスナを利用する。どうやら車でも行けるらしいが、インナー・デルタへはマウン空港からセスナが一般的だ。ガンズ・キャンプまでは約20分のフライトである。

各キャンプの発着場でセスナを降りたら、その先の足はモコロと呼ばれるカヌーに乗っていく。昔は木をくり抜いてモコロにしていたそうだが、現在は政府の指導でグラスファイバー製のちょっと味気ないモコロになっている。

モコロに乗ってデルタのさらに奥に進みテントを張る。するとそこは野生動物が暮らす青と緑の楽園、という図式だ。

セスナに乗ってオカバンゴ・デルタを空から眺め、モコロに乗ってデルタ深部に進み、デルタのど真ん中でテントを張る……ここまでが、私たちがやってみたかったことだ。オカバンゴ・デルタの魅力を味わうには、(厳しいけれど)最低限ここまでやらないと難しいんじゃないかなあと言う気がしていた。もちろん遊覧飛行だけでも楽しめるだろう。動物のいないエリアでモコロに乗ってみるのも良いだろう。だがきっと「あー、あの場所に降り立つことができたら!」と思うに違いないのだ。

そんなわけで私たちはガンズ・キャンプで2泊を過ごすことにした。

ガンズ・キャンプには、ある程度施設の整えられたブッシュ・キャンプとロッジがある。ここにも動物たちがたくさんやってくるという。だが私たちが選んだのは、ウィルダネス・キャンプという大自然のど真ん中でテントを張るプラン。電気や水道なんてもちろん何もない。そんなことはもう慣れっこだ。それより動物たちがすぐそばにいる、このライブ感をどうしても肌で感じてみたかったのだ。


マウン空港を飛び立ったセスナはあっという間に高度を上げた。眼下には乾いたマウンの町並み。こんな土地に湿地帯があるのだろうか、という気になる。

そんな心配もつかの間、セスナはあっという間にデルタ上空にやってきた。蛇行をしながら触手を広げる川の青い筋。そのまわりに広がるパピルスの湿原。ポツンポツンと現れる島に生えるヤシの木。ところどころにできた真っ青なラグーン……。涙が出た。その美しさに思わず涙が出た。こんなことは、氷河を間近で見た時以来、なかったことだ。……おっと、ヤバイ。こんなことでたった20分のフライトを無駄にするわけにはいかない、と慌てて目をこする。

あっ、ゾウだ! 眼下に水浴びをするゾウの姿を見つけた。セスナはあっという間に通り過ぎる。あー……と残念になるが、何の何の。インナー・デルタの旅はこれからなのだ。この大地に降り立つため、私たちは高いお金を払ってやってきているのだ。

それにしてもこのデルタの何と美しいこと。パピルスの緑、ラグーンの青が太陽の光を浴びてきらきら輝いている。どこかで使い古された言葉だろうか。それでもあえて言おう。ここはアフリカ、いや、地球の宝石だ!

たった20分ですでにオカバンゴ・デルタにノックアウトされた私。隣の淳ちゃんを見ると、どうやら同じ様子。出発するまで「オカバンゴ・デルタの魅力がどうもわからへんねんなー」と言っていた淳ちゃんだが、この20分であっという間に実感してしまったようだ。

そうしてセスナはガンズ・キャンプの発着場に降り立った。



■さあ、ウィルダネス・キャンプへ

発着場では、今日から私たちのガイド兼ポーラー(モコロを漕ぐ人を言う)をつとめるジャクソンが待っていてくれた。さっそくモコロに乗ってブッシュ・キャンプまで移動するのだという。

スーッ。ジャクソンの漕ぐモコロが水面をすべった。フネの底面にデルタの水が絡む音がする。チョロチョロロ……。

何てなめらかな動き。そして何て静かなのりもの。しばらくカヌーの類から遠ざかっていたせいだろうか。水面での静寂、目線の低さ。ジャクソンの漕ぐリズム。何もかもが心地良い。そう、こんな感じ。私たち大好きだ。

目を閉じると鳥たちの鳴き声。そして水の音。パピルスの青臭い香り。すでに楽園気分いっぱいなのだ。

15分ほどのモコロ・トリップを終え、ブッシュ・キャンプに降り立った。炎天下でのモコロ漕ぎを終えたジャクソンは、手持ちのコップをモコロの浮かんだデルタの水に突っ込んで水を汲み、グビッグビッとおいしそうに飲み干した。

ブッシュ・キャンプではキャンプ・マネージャーのコニーから簡単なガイダンスを受ける。

「飲み水は……、さっきジャクソンが直接飲んでいるのを見たわよね? 気にならなければ飲んでも大丈夫な水よ」コニーが言う。私たちは基本的に地元の人が飲めると言う水は、飲むようにしている。旅の間でずいぶんお腹も強くなっていることだろう。もちろん私たちは、デルタの水もそのままいただくことにした。

受付票のようなものに緊急連絡先も記入する。そうだ。これから野生地の中へ進むのだ。何があるかわからない。セスナからの景色やモコロの心地よさにすっかり舞い上がっていた私たちだが、ちょっと背筋が伸びる。

受付が終わるといよいよウィルダネス・キャンプへ出発だ。ふたたびジャクソンにモコロを漕いでもらい、今日のキャンプ地へ出発する。

モコロは水深が浅く狭い水路が迷路のように走るオカバンゴ・デルタならではののりものだ。細長いカヌーをとても長いポールを使って進む。ポールはパドルの役割を果たすのではなく、川底を押すために使う。だから少し水深の深い川の部分に差しかかると、モコロの進路は川の淵へと変わる。パピルスをかき分けかき分け進むこの感じは、ちょっとした冒険気分に近い。

1時間ほど進んだころ、バッファローの頭蓋骨が目印のキャンプ地に到着した。目の前はどどーんとパピルスの湿原が広がっている。湿原の中には水生アンテロープのレチゥエLechweの群れがいる。その向こうにはヤシの木がポツポツと並んだ島。「あっ、キリンが歩いてる!」さっそくジャクソンが島の方角を指さす。あー、いるいる。キリンが2頭、のーんびり歩いているのが見える。

すごい場所だなー。

野生のど真ん中にテントを張ると頭では理解していたものの、実際立ってみて初めてその価値がわかったような気がする。もしかしたら今回は、エトーシャ国立公園で見たように、超近くで動物たちを見ることはないかもしれない。だが、この肌で感じるライブ感。すぐそばで動物たちが暮らしている息づかい。車という鎧を脱いで初めてわかる空気感が、このキャンプの魅力なのだ。もちろん動物たちに会いたいのには違いないのだが。足元にはゾウの巨大なフンがごろんごろん転がっている。



■ジャクソンは何でも知っている

ウィルダネス・キャンプでは、朝と夕方、モコロ・トリップに出かける。朝は7時ごろジャクソンにモコロを漕いでもらい近くの島に出かける。島に上陸したらブッシュ・ウォーキング。つまり、動物たちのつけた獣道をたどって島を散歩するのだ。この時ガイドであるジャクソンは丸腰。ライフルなどは持ち歩かない。

日が高くなり動物たちの動きも鈍くなる10時30分ごろ、モコロに乗ってキャンプ地に戻ると昼食とお昼寝タイムになる。

日が弱くなり始めた16時ごろふたたびモコロに乗ってブッシュ・ウォーキングに出かける。

日が落ちて暗くなる前にはキャンプ地に戻り、火をおこす。そのあとはゆっくり夕食を取り、焚き火を囲んで動物たちのざわめきを楽しむ。「ォォーン、ォォーン……」「あー、あれはハイエナの鳴き声だよ」。ジャクソンは何でも知っている。

そう、ジャクソンは何でも知っている。20年ほど前、このガンズ・キャンプができて以来、ずっとガイドとして働き続けているジャクソンは、ベテラン中のベテランだ。動物が好きだから……と控えめに言うジャクソンはこのキャンプでも人気のガイドさんなのだそうだ。

初めてのブッシュ・ウォーキングを始める前には、ジャクソンからいくつかの注意事項をもらった。その1、ライオンに会ったら背を向けて逃げないこと。お腹が空いていない限り襲ってこないので、自分からは動かないこと。その2、単独でいるバッファローはとてもナーバスになっているので特に気を付けること。その3、ゾウに出くわしたら、彼らは鼻が効くので風下にまわること。その4、イボイノシシは突進してくるととっても危険なので、なめてかからないこと。その5、空っぽのアリ塚には蛇が住んでいる時もあるので気を付けること。……うーん、何てリアルな注意事項。もしライオンに会ったら? そんな想像、したくもないが、遠くからは眺めてみたい。複雑な心境だ。

ブッシュ・ウォーキングが始まるとジャクソンは動物博士に変身する。地面に付けられた無数の足跡。全部知っている。「これはハイエナ、これはバッファロー、これは……メスのキリンだよ」性別までわかるのだからスゴイ。私たちもいちいちジャクソンに「これは何?」としつこく聞くので、最後にはすっかり足跡博士になっていた。足跡の中央についた太い線。「これは何を意味しているの?」たずねると、「これはヒョウが獲物をつかまえて引きずった跡だよ。木の上に持っていって食べるつもりなんだね」と言う。

足跡だけではない。実を振り落とそうとしてヤシの木についたゾウの痕跡、あちこちに散乱しているゾウやバッファローの骨(ハイエナが死肉を独り占めしようとくわえて運んでしまうからだそうだ)、一ヶ所に大量に落とされたインパラのフン(マーキングの意味があるのだそうだ)……。動物のことだけではない。このデルタに生きる植物のこと、鳥のこと。ジャクソンは私たちが聞くことになんでも答えてくれた。

初めての夜を迎える前、ふたたびジャクソンから注意事項があった。もし夜中にライオンがやってきた場合。ライトを付けたり、ゴソゴソ動いたりしないでジッとライオンが行ってしまうのを待つこと。ゾウの場合もしかり。とにかく騒がずジッとジッとしていること。そうすれば大抵の場合、向こうがどこかへ行ってくれるはずだ、という。うぉー。本気だ。当たり前だが、本気である。いくら亜極北の地でグリズリーやブラックベアの恐怖と戦ってきたからと言って、ライオンはまた別である。彼らはれっきとした肉食動物なのだ。

と言ってもどうしようもない。実のところこの緊張感が味わいたくて、ここにやってきたのだ。もし彼らが現れるようなことがあったら、腹をくくるしかない。

動物よけになるかと思われる焚き火も功を奏さない。焚き火の火は消さないが、ひと晩中燃やし続けるわけではないのだ。大きな炎が上がるとライオンが炎を飛び越えてしまってよけい危険だという。それではまるでサーカスじゃないか。



■ゾウがやってきた

そして事件は2日目の晩に起きた。

この日も20時過ぎからライオンの遠吠えが始まっていた。昨日よりもいろんな場所から聞こえる。それに何となく昨日より近いような気もする。時たまハイエナの声も混じっていた。

いったんライオンの咆哮(ほうこう)がおさまったあと、再びウォーンウォーンというわめき声が始まった。あぁ……近くまで来たらどうしよう。昨日はライオンが吠えているのにあっという間に爆睡して、淳ちゃんに「信じられへんわ!」と呆れられた私だが(淳ちゃんは、そっとテントに忍び寄る足音に興奮して眠れなかったそうだ。と言っても、それはシマウマだったらしい。ジャクソンは何でそこまでわかるのだろう)、今日はさすがに眠れない。お昼寝をたっぷりしたせいもあるが、こんなに近くでライオンが吠えていたらさすがに眠れないというものだ。

それでもウトウトしてしまったらしい。淳ちゃんが私を揺さぶるのでパッと目が覚めた。

「ちーちゃん、何かが来てる」

ドボバシャン、ドゥボンバシャン。大きな何かが水の中を豪快に歩いているような音だ。確実にこちらへ向かってきている。近づいている。

水の音が止んだ。

好奇心を抑えられない淳ちゃんはそっとテントのチャックを開ける。あれほどジャクソンに「ジッとしているように!」と言われたのに……。蚊がテントの中に入ってこないよう、本当に首だけ外に突き出して様子をうかがっている。外には何がいるのだろう?

「ちーちゃん、大変や!ゾウやわ!!」

キャンプ地から20メートルほど離れた大きな木のそばにゾウが立っていたのだ。今日は満月3日前。ゾウは月の光にくっきり照らし出されていたという。慌てて出していた首をテントの中に戻す淳ちゃん。もはやチャックを閉めることすらできない。だが、こうしている間にも私たちの臭いを嗅ぎつけて、蚊がやってくる。蚊に刺されてはこちらも死活問題だ。

とにかく必死でテントの入り口を手でふさぎ、息を殺してゾウの動きをうかがった。ガサガサと何やらしばらく動いたあと、ゾウは再び水の中をドボンドボンと歩きどこかへ行ってしまった。

ほーっ。……ため息が漏れる。しばらくするとゾウが近くにやってきた実感がふつふつと湧いてきた。

「ゾウやで。ゾウがすぐ近くにきてんで。すごいなー。びびったわ」

お互い興奮が冷めない。まずはテントのチャックを閉め、それからもう一度余韻にひたる。ゾウがやってきた。すぐそばまでやってきた……。

その余韻も冷めやらぬころだった。20分ほど経ったころだと思う。ふたたび、水の中をドボンバシャン、ドゥォボンバシャン……と巨体がやってくる音が聞こえてきた。今度も間違いなくゾウだ。

ザバァーッ。上陸した音がした。すぐ近くだ。今度はもうチャックを開けることさえできない。私たちは固まって目を合わせた。ち、近い。これは絶対に近い。

足音がこっちに近づいてきた。淳ちゃんはテントについた小さな窓から何とか外の様子をうかがおうとしている。気配が近い。ズシン、ズシン、ズシン……。ダメだ。これは本当に近づいてきている。

「げぇー!! ココッ! ココッ!」

淳ちゃんがもうすっかり意味不明な声を発して、外を指さしている。テントのすぐそばにゾウがいるというのだ。鼻がすぐそばに見えるという。

「のぞいてみ!のぞいてみ!」

そう言われて窓をのぞき込むが、すでに巨大な影が目の前に立ちふさがっていて、確かにゾウなのだろうということはわかるのだが、もう何が何だかわからなくなってしまった。固まるとはこのことだ。

私はなぜか寝ころび目を閉じた。どーにでもなれ!と思ったのだろうか。ちょっと思い出せない。あとから淳ちゃんにも「何で、あんな時に寝始めたんかわからへんわ」と言われるほど、謎の行動だった。

ゾウの足音が地面を通じてこちらに響いてくる。ゾウの気配をびんびんに感じる。寝ころぶとなぜかよけいに感じるのだ。

あーもうあかーん。ふたたび我に返って小窓からゾウの様子をうかがってみる。ゾウは少しずつ私たちのテントから離れていくようだった。

ブワッ。ナマ温かいゾウの体臭がテントを包んだ。ものすごくクサイ。ズシン、ズシン。ゾウがどんどん離れていく。ゾウの臭いはまだテントの中に残っている。

口をあんぐり開けたまま、ゾウが行くのを見送った。そしてしばらくたってから……

「ゾウやで!今度こそゾウがキャンプにやってきたで!すぐそばやん!」

今度こそ大興奮である。まるで怪獣がやってきたかのような緊張感からやっと解放された。いくらゾウに敵意がなくてもあんなに大きな生き物では、私たちなんてあっという間にペシャンコだ。「助かったー」てのが正直なところだ。

「ゾウやで。ゾウが来てんで!」

私たちはシュラフの中でウシシウシシと思い出し笑いをしながら、いつまでもゾウの余韻にひたっていた。

翌朝ジャクソンが私たちのテントのそばに残った足跡を見てくれた。どうやらヤシの実を落とそうと、テントのすぐそばのヤシの木の下でいったん立ち止まったらしい。そのあとヤシの実がないと判断して別の場所に行ったようだ、ということだった。私たちもよく見てみると、2つ揃った前足の足跡がくっきり砂地に残っていた。



■オカバンゴの旅終了

そうしてオカバンゴ・デルタの旅が終わった。

ブッシュ・ウォークではたくさんの野生動物に遭遇した。水浴びしているカバ、草をはむシマウマやインパラ、目の前をトットットと横切るイボイノシシの親子、生まれたばかりの子を抱えたバブーン(猿)の群れ……。ライオンなどの肉食獣に遭遇するチャンスはなかったが、ライオンやヒョウ、ハイエナなどの足跡をたくさん見つけることができた。モコロからゾウを眺めたこともあったし、キャンプ地の奥では水路を渡るゾウの親子を見ることもできた。

ものすごい野生である。

至近距離での観察は確かに難しい。だが、この肌で感じる野生の息吹。ラッキーなことに、私たちはすぐそばにゾウがやってきてくれた。野生の息吹ならぬ、ゾウの体臭を思い切り嗅ぐことができた。こんな体験、なかなかない。

「いやー、オカバンゴ素晴らしかった。」

オカバンゴ・デルタを訪れてからの私たちはこの繰り返しである。情けないことにそれ以上うまく説明できない。

「とにかく行ってみて!」

そんな勧め方をしてしまうかもしれない。日本から遠く離れたこんな場所だというのに。

でも、オカバンゴ・デルタはそんな場所だ。空から眺めて、モコロに乗って、自分の足で立つ。そしてデルタの真ん中で眠るのだ。そうしてテントの中で耳をすます。ドボバシャン、ドボバシャン……。ゾウがキャンプにやってくるかもしれない。




▼オカバンゴ・デルタでのキャンプについて

私たちが利用したのはGunn'sCampという場所。
おそらくオカバンゴ・デルタでキャンプをするなら
ここが一番安いと思われます。

私たちは自分のテントなどキャンピングギアをすべて持参。
食料も持参してできるだけ安くすませました。

結局2泊3日のウィルダネスキャンプの合計はひとり448USドル(!)。
当初402USドルで行けると思っていたのですが、ウィルダネス・キャンプで2泊するとなると、3日目のモコロトリップもオーダーしなくてはいけなかったようで追加分を現地で払いました。

内訳は以下の通りです。
キャンプ:ひとり1泊32USドル
パークフィー:ひとり1泊20USドル
モコロトリップ:ひとり1日64USドル
セスナフライト:ひとり往復170USドル

モコロトリップの追加料金は、ひとり250プーラ(46.5USドルで計算されていました)。
現地追加すると安くなるのは??ですが、なぜだか不明。

http://www.gunnscamp.com/






 
ボツワナ オカバンゴ・デルタ セスナ
セスナから眺めたオカバンゴ・デルタの風景。緑の部分がパピルスの繁る湿原、青い部分はラグーン、そして島が点在しています。以前このような写真を見たことがあったのですが、私はどんなところなのかなかなか実感が湧きませんでした。でもやっぱりあえてご紹介。うーん美しかった!!

ボツワナ オカバンゴ・デルタ セスナ 景色
アンゴラからやってきたオカバンゴ川。湿原って人間にとっては使いづらいけれど本当に貴重なもの。自然な川の蛇行って本当に美しいですね。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ セスナ ゾウ
あっ!ゾウだ!4頭の点、見えますか?

ボツワナ オカバンゴ・デルタ セスナ
ガンズ・キャンプのセスナ発着場に到着したところ。ただだだっ広い場所があるだけなんですが。ゾウのフンがあちこちに転がっていて驚きました。

 
ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ モコロ
さっそくモコロに乗って出発です。左にいるのがガイド兼ポーラーのジャクソン。

 
ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ モコロ
うーんモコロ、気持ちいい!あまりの心地よさにとろんとろんになっています。

 
ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ キャンプ ゾウ フン
キャンプ地に着きました。さっそく見つけたゾウのフン!今までは車の中から眺めるだけでしたが、こうやって写真に撮ることができます。っていうか、ゾウがここに来るってことですよね……。

 
ボツワナ オカバンゴ・デルタ ヒッポ・プール カバ
1日目の夕方、ブッシュ・ウォーク中に出会ったカバ。逆光だったのでシルエットになっちゃってますが見えますか?ヒッポ・プールだよ、と言われてやってきたのですがこの日は誰もおらず。うーん、残念!と思った瞬間に「ブシュゥーッ!」という音が。カバでした。このプールには3匹のカバがいました。彼らは日光に弱いので昼間は水の中にいて、夜になると草を食べに上がってくるようです。水中ではなんと25分も潜っていられるのだとか。カバのあくびも見たかったのですが、あれはあくびではなくて威嚇行動なんだそうです。

 
ボツワナ オカバンゴ・デルタ ブッシュ・ウォーク 骨
散らばったバッファローの骨。ハイエナの仕業です。

 
ボツワナ オカバンゴ・デルタ ブッシュ・ウォーク シマウマ
ブッシュ・ウォーク中に出会ったシマウマ。ち、近い……!車から眺めるのとは圧倒的に違うこのナマ感覚。たまりません。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ キャンプ
2日目の朝。朝のモコロ・トリップに出かける前の様子です。キャンプ場の目の前はこんな感じのオープンスペース。パノラマ劇場のようでした。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ ブッシュ・ウォーク ゾウ あしあと
ブッシュ・ウォーク中に見つけたゾウのあしあと。でっかー!ゾウはあんなに大きいのに意外に歩く音が静かなんですね。あしあとを見て秘密がわかりました。何だかスポンジ状になっているみたいですね。これで音や衝撃を吸収しているんだと思います。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ ブッシュ・ウォーク キリン あしあと
ということでお次はキリンのあしあと。でっかー!しっかりV字になっているのにこのデカさ。ちなみに歩幅もかなり大きくて驚きました。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ ブッシュ・ウォーク ライオン あしあと
ゾウ、キリン……と来たら、次はライオンですね。見つけました。ライオンのあしあと。指がしっかりしていますね。やっぱり大きいネコ、といった印象のあしあとです。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ ゾウ
そしてこれはゾウに踏み固められた砂地。たくさんのゾウが通ったんでしょうね。でかいハンコを大地にびっしり押したような感じ。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ ブッシュ・ウォーク ヌー
ふたたびブッシュ・ウォーク中の風景をご紹介。私たちの姿を見て逃げ出すヌー。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ シマウマ
私たちのアイドルマウマちゃん(シマウマ)との出会い。やっぱりこっちをじーっと見てますね。後ろにいるのはインパラ。近い〜!

ボツワナ オカバンゴ・デルタ ブッシュ・ウォーク キリン
これまたブッシュ・ウォーク中に出会ったキリンの親子。私の左に移っている小さなキリン見えますか?お母さんは私の右にいます。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ モコロ・トリップ
これはモコロ・トリップ中に出会った親子。こんな場所にきたらみんないい笑顔にになりますよね。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ ゾウのふん
ブッシュ・ウォーク中はとにかくゾウのフンを頻繁に見つけます。あまりに多すぎて知らずに蹴飛ばしていたり……。ついにはフンでサッカーを始めたり、こんな風に乗ってみたりして。こんなことなかなかできません。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ 夕陽
オカバンゴ・デルタの夕陽。美しい……。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ 夕陽
なぜかここの太陽は今まで見た中で一番大きい太陽でした。何だかもっちりしていてどろーんと沈んでいきます。太陽の大きさってどうしてこんなに違うんだろう?

ボツワナ オカバンゴ・デルタ バッファロー
ブッシュ・ウォーク中に見つけたバッファローの頭蓋骨。今年はなぜかこの辺りにバッファローが少ないそうです。主にバッファローを狙うライオンも一緒にどこかへ移動しているようだ、とのこと。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ アリ塚
ウォーキング中に見つけた巨大アリ塚。

 
ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ テント
そして2日目の夜ゾウが現れた現場。このテントの脇に生えているヤシの木の実を狙ったようです。「そこは暑いからテント移動させたら……」とジャクソンに言われていたにも関わらず、面倒くさがりの私たちは動かさずじまい。それが功を奏して?すぐそばにゾウがやってきたというわけです。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ ヤシの実
ゾウが大好きなヤシの実はこんな感じ。南の島で見るものとはちょっと違いますね。大きさは握り拳より少し小さいくらい。この茶色の薄い表皮をパリパリとめくると中から繊維質が現れます。これがおいしいんですね。中心部の種のまわりを囲む繊維質の部分を食べているようです。地元ツアナ人で仲良くなったKBもこの実が大好き。私たちも食べさせてもらいましたが、シナモンビスケットのようでなかなかおいしかったです。ゾウはこの実を丸ごと口にいれて未消化の種の部分をウンチと一緒に排出します。これがもしかするとヤシの実の発芽を促していることになるのかも。

 
ボツワナ オカバンゴ・デルタ モコロ
モコロからの風景ベストショット。うーんキレイ。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ モコロ
少し深い部分。水草が揺れている様子が見えます。水は本当にキレイ。3日間ココの水をそのまま飲みましたが、少しくさの香りがついてなかなかおいしかったです。

ボツワナ オカバンゴ・デルタ サファリ
3日間お世話になったジャクソンと最後に記念撮影。帰りたくない〜とダダをこねてしまいました。




▼PART46 2005.11.20 これぞリアル・アフリカ 〜ザンビア サウス・ルアングア国立公園前ムフエ
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