World Odyssey 地球一周旅行

この旅について
旅の日記
 INDEX
旅のルート
旅の写真
旅のアレコレ

旅に出る前に
プロフィール
旅の情報
リンク
掲示板
メールマガジン
Special Thanks!

>> TOP



旅の日記
見たもの、乗ったもの、食べたもの…たくさんの驚きを写真と一緒にお伝えします。



▼PART44 2005.09.16 白い大地に残された「野生の王国」
>>ナミビア エトーシャ国立公園



■アフリカ2ヵ国目ナミビア

マウンテンゼブラ国立公園でヤマシマウマに会った私たちは、このあと一気に次の訪問国、ナミビアを目指すことにした。国境までは約1,000キロ。2日がかりの行程だ。

ナミビアでの目的地は2つ。ひとつは、西部の海岸に広がるナミブ砂漠(南北にわたって2,000キロ近くもある)。世界最古、高さは世界最大級とも言われる、アプリコット色をした砂漠だ。もうひとつは、ナミビア北部にあるエトーシャ国立公園。広大な国立公園は、またの名を「野生の王国」と呼ばれているように、今なお多くの野生動物たちが暮らしている。私たちはここでセルフサファリ(自分で車を運転し、野生動物ウォッチングすること)にチャレンジするつもりだ。

さて、その前に少しだけナミビアについてご紹介したいと思う。私たちには本当に馴染みの薄い国だ。

驚くことに、独立は1,990年3月。つい最近である。私たちはナミビアに来る前に「ナミビアはドイツの植民地だった」と聞いていたので、敗戦国であるドイツが植民地を所有していたのか、と勘違いして驚いてしまった。が、実際の歴史はもう少し複雑だった。

ナミビアがドイツ領南西アフリカとなったのが1,884年のこと。その後、第一次世界大戦中の1,915年、南アフリカ連邦(現在の南アフリカ共和国)に征服されてしまう。そして大戦後のベルサイユ条約で、ドイツはすべての海外植民地を失うことになる。ナミビア(南西アフリカ)も例外ではなく、ドイツ領から国連の委任統治(ドイツの旧植民地を、国連の委託のもと他国が統治すること。一応国連の監督を受けるが、自国の領土とすることができる)国となってしまった。ナミビアの統治権を得たのは南アフリカ連邦だ。

第二次世界大戦後の1,946年に開かれた国連総会で、南アフリカ連邦はナミビアを国連の信託統治領(委任統治制度よりさらに国連の監視を強くし、管理下に置かれた国の独立を強く促す制度)とするよう求められた。にもかかわらず、南アフリカ連邦はその要請を無視し続け、自国のアパルトヘイト体制をナミビアにまで拡大させたという。そうして1,988年の独立合意にいたるまで、南アフリカ連邦(南アフリカ共和国)のナミビア占領は続いたのだそうだ。

独立後は、アパルトヘイトの苦い歴史を解決すべく大統領のもと民族和解政策が掲げられているという。だが、私たちが通り過ぎた印象では、南アフリカ共和国ほどではないにしろ、民族の融和はまだまだこれからという感じだ。ちなみに今でも町では、そこかしこにドイツの影響を見ることができる。独立したばかりというと極端に近代化が遅れているイメージだが、主要な町ではきれいなスーパーマーケットで普通にものを買うことができる。

ナミビアの主な産業は、南西部の海岸に大量に眠っているダイヤモンドと観光資源、これに尽きるだろう。国土の大半は極端に乾燥している不毛の大地だ。国民1人あたりのGDPは、世界で真ん中くらいの1,730USドル。ヨルダンなど中東の国々や中米グアテマラと同じくらいのようだ。

もうひとつショッキングな事実がある。ナミビアの平均寿命である。何と42.8歳(2,003年推計)。世界の国々の中でこれは14番目に若い数字である。乳児死亡率は高いものの平均寿命ほど世界的な順位が悪くないということは、数字通り早く亡くなる人も多いということだろう。(このあと訪れるボツワナの平均寿命はもっと低く世界で2番目に若い32.3歳である)

南アフリカ共和国で、目玉が飛び出るような大豪邸に住む白人と、立地条件の悪いところへギュウギュウ詰めにされた黒人の住宅群(タウンシップと呼んでいる)とを目にし、かなり驚いた私たち。遅まきながらアパルトヘイトって何だったんだろうと少し調べてみたりするうち、ナミビアのことも気になってきた。この程度でナミビアの何がわかるというのか、と言われたらそれまでだが、立派なパンフレットを見て、のこのこ出かけるよりはマシかもしれない。



■エトーシャでは水場がポイント

そんなわけで8月25日、私たちはナミビアに入った。お目当てだったナミブ砂漠に立ち寄り、2つ目の目的地エトーシャ国立公園のゲート前にたどり着いたのは8月30日だった。

エトーシャ国立公園は総面積2万2270平方キロメートル。ちょうど東海三県(愛知・岐阜・三重)ほどの大きさもある広大な公園だ。公園の西部には敷地の1/3を占めるエトーシャ・パンという塩性湿地が広がっている。この石灰質の白い平原は、かつて湖の底だったという。が、今では1年のうちほとんどがカラカラに乾いている不毛の大地だ。1~3月の雨期には一帯は水びたしになり、動物や鳥たちのオアシスとなるという。

私たちのようなシロウトでも、気軽に動物観察できるのは6〜9月の乾期である。この間はまったく雨が降らないのだそうだ。つまり、この時期なら動物たちが水場に集中しやすいので動物観察もしやすい、というわけだ。雨期になれば昼間の気温も高いし(マラリアを媒介する蚊も大量に発生する)、木々の葉が生い茂って動物たちを隠してしまうので、これらのことを考えても乾期である冬がゲームドライブには最適な時期であると言えるだろう。

動物観察をするなら世界一、と言われるのにはいくつか理由がある。ライオン、レオパード(ヒョウ)、ゾウ、黒サイは、普通に見ることができるという(もちろんキリンも)。乾期の冬にはシマウマやスプリングボック、ゲムズボック、エランドなど大型アンテロープ(レイヨウとも言う。日本ではカモシカがその仲間にあたる。シカのように見えるが実はウシの仲間)、雨期である夏にはヨーロッパからの渡り鳥が多く見られるという。

野生動物の種類、その数だけではない。園内3つのキャンプサイトに併設された水場(ウォーターホールという)では、そこに集まる動物たちを、すぐそばで眺めることができるのだ。動物たちとを隔てているのは簡単に積み上げられた石垣のみ。動物園とは明らかに違うこの「野生の劇場」を、訪問客はのんびりいつまでも楽しむことができる。これらがおそらく、世界一と言われる所以だろう。

そう、エトーシャと言えばウォーターホールなのだ。公園内には数え切れないほどのウォーターホールがある。が、人工のものもあれば、自然に湧き出た泉もある。乾期に乾いてしまうものもあれば、1年中潤っているものもある。このウォーターホールに集まる動物たちを狙って、人間たちも集まってくるというわけだ。



■エトーシャでの過ごし方

問題は、どこのウォーターホールに行くかだ。私たちが自分の車でドライブすることができるのは、公園の西側、公園全体の2/3にあたる、東西約120キロの区間だ。多くの道はエトーシャ・パンに沿うように走っている。この区間に点在しているウォーターホールを目指して、私たちは車を走らせることになる。

各キャンプ場には目撃情報を書きためるノートが置いてある。これをみれば最近、どこでどんな動物がいるかの予想をある程度立てることができる。だが昨日ライオンがいたからと言って、今日もいるとは限らないし、来ないとも言えない。最終的には「ここはくるゾ」というカンとそれを信じる気持ちが頼りになってきてしまうのかもしれない。

公園の開園は日の出と同時。私たちはちょうど冬時間と夏時間の移行時に滞在していたが、冬時間で6時10分ごろになる(夏時間だと7時10分)。閉園は日の入りと同じ17時50分ごろだった。

開園、閉園とは、ゲートの開閉を指す。園内のキャンプ場に滞在しようが、公園外で待機していようが、閉園の時間が来たら翌朝の開園の時間までは園内をドライブすることができない。

園内のキャンプ場に滞在すれば、夜はキャンプ場そばのウォーターホールに集まる動物たちを観察することができる。これが最高のアトラクションなのだが、とにかくここの国立公園、利用料がめちゃくちゃ高い。ナミブ砂漠でもそうだったのだが(ナミブ砂漠も国立公園である)、公園の入場料(人間と車)にキャンプ場利用とあわせると、ふたりで1日7,000円近くもかかってしまうのだ。だが、やはりできるだけ長くエトーシャを楽しみたい。そんなわけで私たちは、公園の外部にある私営のキャンプ場の利用も組み合わせて、エトーシャで(ある程度)気が済むまで動物観察をすることにしたのだった。

動物観察をするには、朝と夕方が一番である。日の出とともに活動を始める動物たち、狩りを終え眠りにつく前の肉食動物たちの姿を見ることができるのは、朝一番のウォーターホールだ。日差しがガンガン照りつける日中は、動物たちも木陰でジッとしていることが多い。そして少し日がかげり出す15時過ぎ、動物たちも乾いた喉を潤しに、ウォーターホールへ集まり始める。夜には、水場に集まる草食動物を狙って夜行性の肉食動物(ライオンなど)がものかげに潜んでいる。運がよければ、そんなシーンも見ることができるのだ。

というわけで、エトーシャではまず日の出前に起き日の出とともに車を走らせる。水場をいくつか回るか、ここぞと決めた水場で動物たちが現れるのをじっと待つ。もちろん、彼らの方が先に到着していることだってある。そんな時は、他の水場に浮気せずジッと観察するのがおそらくベストだ。

昼前には昼食を取りにいったんキャンプ場に戻る。動物たちだって休んでいるんだからと思いつつ、ついつい午前中にいい場面に遭遇してしまい、お昼過ぎ慌ててサイトに帰ってくることが多かった。昼食を慌てて食べ少し昼寝をして、14時30分ごろ寝ぼけまなこで、夕方の水場へ向かう。

夜はキャンプ場のそばの水場で「張る」ことになる。気が焦ってしかたがない淳ちゃんは、18時30分には好位置のベンチを確保していることが多かった。そこでサイやゾウ、はたまた水場に集まる草食動物を狙うライオンなどの登場をジッと待つのだ。この水場に終了時間はない。朝まで粘ることもできるのだが、翌朝は日の出前起床なので深夜0時ごろまでが限界だろう。それでも「昨日夜中の2時にライオンが出たよ」なーんて聞かされると、やっぱり淳ちゃんは「オレ、もう少し見ておくわー」てな感じになってしまうのだ。



■はかなげな美しさを持つ草食動物

そんなエトーシャでの5日間で私たちはたくさんの動物たちに出会った。自分の車で回ることができたので、満足のいくまでゆっくり観察することができたと思う。すると動物たちとの出会いは、ただ「遭遇」するだけではなく、ひとつひとつのシーンとなって私たちの印象に残ってくる。ここからは、そんな心に残るシーンのいくつかをご紹介したいと思う。まずは、追われる身だから?ピリッとした緊張感が美しい、草食動物たちのシーンから。


---とにかく用心深いキリン---

キリンは見飽きるほどいる。特にキリンが大好きな黄色い花の咲くエリアに入ると、右を見ても左を見てもキリン、ということがある。ところが彼らはあんなに大きな図体をしているのに、とても用心深い。私たちの車がそばに止まると目を合わさないようにスーッとさりげなく距離を取ってしまう。至近距離でキリンの顔を見たり写真を撮りたいなあ、と思っていても、これがなかなか難しいのだ。水場でも同じ。「あっ、向こうからキリンの親子がやってきた!」と思っても、私たちが車を止めて待っている水場までたどり着くまで時間のかかること。他の動物たちは、目に見えるより早く到着するのにキリンだけはいつまでたってもやってこない。3歩進んで前後左右確認。その場の空気が見えるまで停止。OKが出たら後続の子供を呼ぶ。子供が近くまでやってきたら、また3歩ほど進む。そしてまた前後左右確認、といった感じ。子供連れだったせいもあるのだろうが、キリンは本当に用心深かった。キリンに天敵はいるの?と思っていたのだが、ライオンはキリンを襲う。エトーシャを訪れたあと、そんな凄惨な狩りのシーンを写真で見て、キリンの用心深さも納得してしまった私たちだ。




---いばりんぼなゾウ---

南アフリカ共和国のアド・エレファント国立公園でも思ったのだが、「温和なゾウ」というのはこちらが勝手に持っているイメージのようだ。特に若いオスはかなりやんちゃ。たとえばある日の午後。水場にはてんこ盛り状態で、スプリングボックやゲムスボック、シマウマが集まっていた。そこへ現れたゾウの一家。彼らが水の縁に到着するやいなや、他の動物たちはサッと水場から引き上げる。譲ってもらった彼らにゾウはお礼も言わず(当たり前か)、悠々と水を浴び、鼻から口へ水を運ぶ。ゾウのまわりでは、退かざるを得なかった彼らが、ゾウの水浴びが終わるのを恨めしそうに眺めている。そこへ何頭かのゲムスボックが、ゾウの視界に入らなさそうな場所から、そろりそろり水場へ入ろうとしている。ハッと気づくゾウ。「えーい!ここはオレらの場所じゃー!」とばかりに、鼻に入れていた水をブシュゥーッ!とゲムスボックに吹きかけるのだ。大あわてで逃げるゲムスボック。彼らのあとから自分たちも水に入ろうとしていたシマウマたちも、一目散に逃げ出す始末。水場は大混乱だ。そうして、ジャマものを追い払ったゾウは、またのーんびりと水浴びを続けるのだった。たまに、若いオスゾウのマネをして、小さい子供のゾウがゲムスボックを追い払ってみたりするのだが、あっさり無視されている。やはりゲムスボックも、相手を見るようだ。



---シマウマってこんなに綺麗だったっけ---

これもアド・エレファント国立公園、マウンテン・ゼブラ国立公園でヒシヒシと感じたことなのだが、自然の中にいるシマウマの美しいこと。彼らは、個体識別を難しくさせるためにああいった模様になったのだというが(それでも1頭1頭模様が違う)、数頭がじゃれあっている光景は息を飲むほど美しい。ブエノス・アイレスの動物園で見た時は「ただのウマじゃーん!」と思ったのだが、何の何の。自然の中にいるものは、何でも美しいのだなと改めて実感した。ある時は、群れの中に親子連れのシマウマを発見。子供のお尻部分はまだ、けば立った産毛のようだった。それでもきちんとシマウマの柄なのだから、自然って本当に不思議で美しいものだ。



---みんなゆっくり歩く---

車を走らせていると、窓の向こうに広がる平原を水場に向かって移動する動物たちの姿を目にすることが多い。シマウマ、スプリングボック、ゲムスボック、クードゥー、レッドハーテビースト、ブラックフェイスドインパラ、そしてヌー(実は前回「ワイルドビースト」とご紹介していた動物。あれ「ヌー」でした。英語の図鑑を見ていたので、まったく気づきませんでした……)。列になるものもいれば、バラバラで移動するものも。だがどの動物たちも、歩みが本当にゆっくりしているのだ。誰も急いでいるヤツなんていない。一歩一歩ゆっくりゆっくり水場へ向かう。暑いから余計体力を使わないためだろうか。それにしても、小走りなヤツがいないというのはいいなあと思った。ちなみにゾウはとてもゆっくり歩いているのだが、歩幅が大きいせいだろうか、意外に速い。



























---ウォーターホールでの秩序---

ウォーターホールでは色んな動物が入り乱れていることがある。が、特に小さい水場などでは、動物たちの間で歴然とした順序が存在している。特にゾウがいない水場ではよりはっきり見ることができて、なかなか興味深い。一番強そうなのが、立派な角を持ったゲムスボック。こいつはボシュッボシュッという荒い鼻息からも、気性が激しそうな印象を受ける。水場の近くで若いオスどうし、戦闘ごっこが始まると、まわりにいた他の動物たちは慌ててその場を離れている。お次はシマウマ。ゲムスボックと一緒に水場に入る時も多いが、機嫌の悪いゲムスボック、ゾウのいない時のゲムスボックだと追い払われることも多い。だが、ゲムスボックの目を盗んで水場に入ろうとするシマウマも多く見るので、彼らに明確な順位はないのかもしれない。ゲムスボック、シマウマが終わると、やっとちびっこ軍団スプリングボックの番だ。クードゥーたちもこのあたりの順番のことが多い。そして最後は意外にもキリンなのだ。前述したように、キリンはものすごく用心深い。そのせいもあるのだろうか。全員が水を飲み終わって水場に落ち着きが戻ったころ、やっとキリンが登場することが多い。これらの動物たちよりも強いのが、ヌーで、それより強いのがゾウである。




---エトーシャ名物白ゾウ---

エトーシャには白ゾウがいる。というのも、ここが白い大地だからだ。ゾウは皮膚の乾燥予防と日よけのために体に泥を塗るという。私たちも一度だけ目撃したのだが、バシャッバシャッと鼻から全身に水を吹きかけてリフレッシュしたあと、おもむろにごろーんと寝ころんでしまう。おそらくそうして体中に泥を塗っているのだろう。ごろーんとしたゾウの気持ちよさそうなこと。あの巨体が意外にしなやかに動いて、スクッと立ち上がるのだからまた不思議だ。エトーシャのような白い大地では、寝ころぶ場所の土によっては彼らの体が白く包まれることもあるのだろう。だいたいみな同じ場所で寝ころぶので、白いゾウが現れると、ファミリーが全員白いゾウだったりして圧巻である。

















---ゾウの亡きがら---

ゾウのお風呂、と呼ばれるウォーターホールへ向かう途中だった。何か大きな固まりが横たわっている。ボワッとその方向から風がやってきた。ものすごく、クサイ。大きな固まりはゾウの死骸だった。皮はほとんど残っていてゾウだということがはっきりわかるのだが、もちろん中身はない。ゾウには墓場といわれる場所があって、死期が近づくと自ら墓場に向かって死を迎えると聞いたことがあるが、このゾウはどうしてこんな場所で死んでしまったのだろう。スタッフに聞いても知らなかった。ついでに無くなっていた象牙のありかも聞いたが知らなかった。現在はどうか知らないが、2,002年の時点で世界で唯一象牙を輸入していたのは日本だけだ。




■王者の風格たっぷりなライオン

次は肉食動物の代表的存在ライオンについてのあれこれ。ここエトーシャ国立公園では意外に簡単にライオンを見ることができる。ただ、狩りのシーンとなると少し難しい。というのも、ライオンは夜に狩りをするからだ。昼間に目撃するライオンの多くは、日本の動物園のそれと同じくだらーんと惰眠をむさぼっているものが多い。そんな中で私たちが出会ったライオンの様子をいくつかご紹介しようと思う。


---ライオンが目の前を!---

朝一番、いくつかライオンの目撃情報を聞いていたオコンデカという水場に向かった時のこと。残念ながら水場には誰もおらず、このあとも誰も現れるような気がしなかった私たちは、次の水場へ行くことにした。車をしばらく走らせていると、キキーッ、淳ちゃんが急ブレーキを踏んだ。目の前には立派なたてがみを持ったオスライオンが2頭。ゆっくりゆっくり優雅に足を運び、私たちの目の前の道路を横断している。彼らはこちらの硬直などお構いなし。やがて、2頭は白い大地に消えていった。おそらく、夜の狩りが終わって寝床に向かう途中だったのだろう。その余裕ある歩きっぷりから見ると、昨夜の狩りは成功だったのかもしれない。



---夜の水場は大盛り上がり---

一番人気の水場オカウクーィヨでのこと。夜の暗闇があたりを包みだしたころ、どこからともなくライオンの鳴き声が聞こえてきた。「お腹が空いたよぉぉー」と聞こえなくもない。最初に水場に現れたのはクロサイだった。お次はゾウ。もう、それだけでも大興奮なのだが、ついにライオンが現れた。3頭のメスである。なぜか3頭とも体を寄せ合い1ヶ所で水を飲んでいる。3頭は喉を潤すと、再び暗闇の中へ消えていった。しばらくすると左手の方で、観客(水場を観察しに来ている人)がざわめきだした。ハッと息を飲んでいる空気がこちらにも伝わってくる、といった感じだ。鳥たちも、キーキー、キーキーといつもとまったく違う声を上げ、異常を知らせている。すると左手から何かがトコトコ歩いてきた。強いオレンジのライトに照らされ、まるで演目が終わって挨拶をしに来た役者のようである。いよいよ私の目の前にもやってきたのは、スプリングボックだった。よく見ると胴体が血で染まっている。人々のざわめきはこれが原因だったのだ。傷ついたスプリングボックは何喰わぬ顔で、私たちの目の前を通り過ぎる。おそらくライオンが狩りを試みて失敗したのだろう。それにしても、このスプリングボック、こんなところでウロウロしていたら危ないのに大丈夫なのか。彼は観客全員に挨拶するように、水場のまわりを一周し、ひと息ついたようだった。時たま、死肉を狙うジャッカルがスプリングボックにちょっかいをかけて、追い払われている。血だらけなのに、まだそんな力も残っているのだ。すると突然、サッと影が動いた。先ほどのメスライオンである。3頭はうなり声を上げながら一斉にスプリングボックに飛びかかった。慌てて逃げるスプリングボック。彼らはあっという間に、ライトの光の届かない暗闇に消えていってしまった。その時、今までとは違ううなり声が、暗闇から挙がった。ウゥ……ワォワォ。一瞬静けさが訪れる。そして再び、グゥワォワォ、グワォ、という声。観客は全員硬直している。水場にいたサイやゾウも硬直している。そしてまた、静寂が訪れた。たぶん、ライオンはいったんスプリングボックを仕留めたのだろう。そのあとスプリングボックが息を吹き返し、暴れたのかもしれない。そして、とどめをさしたのではないだろうか。暗闇から聞こえる音だけだが、そんな光景が目に見えるようだった。





























---ライオンファミリーの朝---

ふたたびオコンデカでの朝のこと。今日は何かいるかなーと水場に着いてみると、すでに先客あり。ライオンファミリーだった。オスライオンに、メスライオン3頭、そして子ライオン5頭。ずいぶん遠いので双眼鏡での観察になった。しばらくすると、オスライオンが何かをくわえてこちらへやってくる。双眼鏡をのぞき込むと、りっぱな角が見える。彼がくわえているのは昨夜仕留めたヌーの死骸だった。そのあとをついてくるメスライオンと子供たち。水場の近くまでやってくると、彼らは思い思いの場所でくつろぎ始めた。今日の寝床はこの水場にしたのかもしれない。頭と背骨と皮だけになったヌーのそばに陣取ったのは1頭のメスライオン。ガジガジとかじり付いたり、もてあそんでみたり……とヌーのそばから離れようとしない。時たま思い出したかのように子ライオンもヌーの肉を食べにくる。遠くから水場を目指して草食動物たちがやってきた。いつもなら水場は、スプリングボック、ゲムスボック、シマウマやヌーでいっぱいになるのに、今日は様子が違う。水場のそばにライオンファミリーがいるから近づけないのだ。遠巻きに様子をうかがう草食動物たち。ライオン一家が眠る水場の向こうにはもうひとつ小さな水場がある。ライオン一家の前を無事通り過ぎることができたら、草食動物たちも水にありつけるのだ。ジリジリと距離を縮める彼ら。最初にライオン一家の前を通過したのはヌーだった。目の前には、昨夜やられた仲間が横たわっている。どんな気持ちでライオン一家の前を歩いているのか。慎重に慎重に、ライオン一家の様子をうかがいながら、ヌーは一列で歩き隣の水場へたどり着いた。それを見ていた他の動物たちも一斉に動き始める。ライオン一家の方をチラチラ見ながら通り過ぎるもの、肝試しでもしているかのように一気に走り抜けるもの、誰かの影に入りながらそろそろ移動するもの……。ライオン一家は満腹なのか、誰も襲うことはなかった。


---あくび2時間待ち---

別の朝のこと。車を走らせていると、異常に車が集まっている水場のそばにやってきた。これは何かいるに違いない。そう思って車のそばに寄ってみると、すぐそばにライオンが眠っている。まわりをみるとまだいる。全部で5頭、ライオンがむにゃむにゃと眠っているのだ。寝ているとはいえ至近距離でのライオンはやはり迫力満点。今日はここでライオンをしばらく観察することにした。私たちが狙っていたのは「ライオンのあくび」。「あーよく寝たー!」とばかりにグワーッと大きな口を開け、牙をむき出しにした様子を写真に撮りたくて、1頭のオスライオンに張り付くことにしたのだ。ところが相手は生き物。何度も起きてはくれるものの、そう簡単にあくびをしてくれるわけもない。お昼も近くなってきたので「そろそろ行こうか……」と淳ちゃんの方を振り向いた時だった。「あーっっ!」淳ちゃんがものすごく驚いた顔をしている。振り向くと、大あくびをするライオン。あちゃー。せっかく2時間も「あくび待ち」をしたのに一瞬でパー。自然とはこういうものである。




■エトーシャ訪問を終えて

そうしてエトーシャ国立公園での5日間が終わった。さすが、動物観察するなら世界一、と言われるだけのことはある。乾期の今なら、本当に簡単に動物たちを見ることができるし、その数もハンパではない。公園内は2WDの車でも大丈夫な道だし、動物たちは車に慣れている。近くで思う存分野生動物観察がしたい、という人にはうってつけの場所だろう。キャンプ場も高いながらよく整備されているし、併設された水場のクオリティも高い。人気のオカウクーィヨにいたっては、自然の湧き水というからなお驚く。

公園側から提供される情報の少なさ、利用者のマナーの悪さ……エトーシャを訪れてみて、気になったこともいくつかある。

だがここは間違いなく「野生の王国」だと思う。この地を訪れて一番驚いたこと。それは「色んな種類の生き物がこの地球にいるんだなあ」ということだ。首の長い生き物、とてつもなく大きい生き物、恐ろしいキバを持った生き物……動物園に行けば珍しい生き物は見ることができる。だが、そんな珍しい生き物が、私たちが暮らす同じ大地で同じようにそれぞれの「生」を生きている。そのナマの姿をこの目で見て実感できたこと。これがエトーシャの醍醐味なんだと思う。動物たちをじっくり見たくなったらまたここへ来よう。日本から見たら地の果てのような場所にあるエトーシャだが、やっぱりそう思うのだ。






 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ライオン
1日目にいきなり目撃したライオンファミリー。メスと子供はブッシュの中でしたが、オスは日当たりの良い場所でウトウト……。ライオンは片目をあけて眠ると昔から信じられていたそうですが(そのため門番の印によく用いられたそう)、だいたい両目を閉じていたなあ。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ シマウマ キリン 水場
Halali Rest Campエリアに近いGoasという水場にて。シマウマの向こうにキリンの親子が見えます。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ スタインボック
これはスタインボックSteenbokという小型アンテロープの一種。しつこいですが、こんなにかわいくて小さいのにウシの仲間です。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ キリン
車のすぐそばまでやってきてくれたキリンの親子。歳をとるごとに網目模様がはっきりしてくるんだそうです。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ セグロジャッカル
あー、またかー!と言われがちなジャッカル。キツネのようですが、犬の仲間です。これはセグロジャッカルBlack-Backed Jackal。基本的に夜行性。食物は死肉を食べるイメージですが、小動物や昆虫も食べます。群れになると狩りもするそう。ちょっとおもしろいのが他の哺乳類と違って一夫一妻制なこと。子供が生まれるとファミリーの中の年長の子供は弟や妹の世話をするんだそうです。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ オカウクーィヨ 水場
これが大人気のオカウクーィヨOkaukuejoの水場。手前にいるのがスプリングボック。そしてシマウマ。奥にいるのがゲムスボックです。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ サルバドーラ 水場
これはサルバドーラSalvadoraという水場にて。水場の奥にエトーシャ・パンが広がっている見晴らしの良い場所。到着した時は何もいなかったのですが、しばらく待っていると来るわ来るわ。列をなしてスプリングボックとシマウマがやってきました。これはシマウマの順番が終わってスプリングボックが水を飲み始めたころ。このあと5分ほどあとに、なぜか一斉にスプリングボックもシマウマもクモの子を散らすようにどこかへ行ってしまうという事件が勃発。たぶんブッシュの影に捕食者(ライオンかな?)がいたんでしょうね。見つけられませんでした。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ゲムスボック
ゲムスボックGemsbokです。別名オリックスとも言うそうですね。特徴はこの角。メスにもあるそうです。これもアンテロープの一種なのでウシの仲間。ですが、ボシュボシュというげっぷのような行動はちょっと馬っぽいかも。危機が迫ると長い角を地面と平行になるまで頭を落として、正確に突きを入れるそうです。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ 動物
ちょっとわかりにくいんですが見えますか?左に水場を離れるゾウ。そのゾウの行方を見守る右のキリン。このキリンはゾウが完全にいなくなってからやっと水場で水を飲み始めました。キリンは必要な水分を植物からもとることができるのだそう。1ヶ月以上も水を飲まずに生きられるという話も。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ キリン
キリンの子供は特にプレデター(肉食獣)の標的にされがち。生後1ヶ月以内の死亡率が20%になったこともあるんだとか。そんなわけでお母さんキリンの警戒態勢は最高レベル。ゆっくりゆっくりまわりを警戒しながら水場を去ります。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ 水場 動物
オリファントバッドOlifantsbad(ゾウのお風呂という意味なんだそう)という名の水場にて親子ゾウに会いました。後ろにいるのはハーテビースト。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ 水場 動物
彼らの後方からそろりそろりと水を飲もうとしていたシマウマたち。「じゃまするなー」とこれはお母さんゾウから追い払われている模様。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ バーチェル・シマウマ
仲良しシマウマを発見。あごをのっけちゃって気持ちよさそう〜。このバーチェル・シマウマBurchell'sZebra(サバンナ・シマウマ)は縞模様の間にグレーの線(シャドー・ストライプ)が入っていることが特徴のよう。敵に襲われると大きな蹄で蹴り飛ばすんだそうです。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ キリン
ゆっくり道に出てきたキリン。いつもはゆっくりですが時速60キロで歩くこともできるんだそうです。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ シマウマ
水場に向かうシマウマ。ちょっと暑そう……。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ インパラ
これはオリファントバッドで見かけたインパラImpala。ここエトーシャのインパラは顔に黒い筋があるのでブラック・フェイスド・インパラと呼ばれています。インパラは東部アフリカでたくさん会う予定。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ヌー
水場へ向かうヌー(ワイルドビースト)。ウシの角、馬のたてがみに尻尾、そして山羊のヒゲを持っています……が、これも大型アンテロープの一種。ウシの仲間です。見た目もコワイし、ワイルドビーストっていう名前からも、凶暴そうですがかなり臆病なヤツ。なかなか近くで写真を撮れません。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ダチョウ WIDTH=
オリファントバッドにて。ダチョウは手前の黒いのがオスで奥のグレイ2羽はメスです。ダチョウは一夫多妻制。しかもメスの中にもヒエラルキーが明確にあるという厳しい社会。ダチョウに生まれなくてよかった……。手前にいる立派な角の持ち主はクゥードゥーというこれまた大型アンテロープの一種。オスです。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ヌー
ゾウと距離をとりつつ、水にありつけたシマウマと取り残されたゲムスボック。オカウクーィヨの水場にて。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ 白ゾウ
おぉぉ……エトーシャ名物白ゾウの登場です。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ 白ゾウ
白ゾウが見られたのはNebrowniiという水場。ここは道のすぐそばにあるのですが、よくゾウが集まっているところに出くわしました。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ヌー
近づいてみたところ。鼻でズズズィッと水を吸って口に持っていきます。そのあと顔を上にあげて水を飲み込む仕草をするゾウもいます。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ゾウ
オリファントバッドへ行く途中に目撃したゾウの亡きがら。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ヌー
なかなか立派なたてがみを持ったライオン登場。メスはオスのたてがみの色(黒い方がいいんだとか)や長さで、夫選びをするんだそうです。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ 水場 クロサイ
夜のオカウクーィヨの水場です。最初にクロサイが現れました。クロサイは本当に警戒心が強くて、今では夜の水場ぐらいでしか見ることができません。クロサイは木々の葉や枝を食べるので、上唇が逆三角形をしています。健康な大人のサイとゾウ。これだけはライオンが襲うことのできない相手なんだそうです。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ 水場
ライオンの狩りが終わったあとの水場。キリンまで現れて、もうオールスター総出演といった雰囲気でした。左にいるのがクロサイ、奥に写っているのが水場を離れるゾウ、そしてキリンにゾウ。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ サソリ
観客席側でも大盛り上がり。大サソリが獲物を捕らえたところを発見。ちょっとキモイですが……私も長時間の正視は不可能。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ クロサイ
淳ちゃんはクロサイがお気に入り。ということで、ここからはクロサイ3連発。まずはサイの親子。左の子サイ、上唇が尖っているせいなんでしょうが、笑っているように見えます。カワイイ……。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ クロサイ
すぐ近くまでやってきたクロサイ。サイの角は骨質ではなくて、爪などと同じケラチンでできているんだそうです。サイの角はご存じの通り漢方などで未だに需要が多く、密漁の対象になっています。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ヌー
平和に水を飲むゾウとサイ。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ライオン 動物
ライオン一家の前を慎重に通り過ぎるヌーの列。ヌーの群れには必ずリーダーがいて、彼が先陣をきります。リーダーが行ってOKなら他の群れもあとを追います。左手に座っているメスライオンのそばにあるのが、ヌーの死骸。角がちょっと見えるんですが見えますか?右側にはカブ(子供のライオン)が何匹かいます。

 
ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ヌー
Nebrowniiではライオンが目の前で眠っていました。これはひょいと起きあがって水を飲みに行った帰り。若いオスライオンでしょう。車のすぐそばを通っていったのでちょっとビビリました。

ナミビア エトーシャ国立公園 サファリ ヌー
そして2時間あくび待ちをした私たち。一瞬のすきにファーストあくびを逃しましたが、何とかセカンドあくびを撮ったところ。あー、正面を向いていてくれたら……




▼PART45 2005.09.22 ゾウがキャンプにやってきた 〜ボツワナ オカバンゴ・デルタ
?Back