World Odyssey 地球一周旅行

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旅の日記
見たもの、乗ったもの、食べたもの…たくさんの驚きを写真と一緒にお伝えします。



▼PART23 2004.11.27 4,000メートル峰に挑む!
>>中米最高峰 グアテマラ・タフムルコ火山



メヒコをあとにし、4ヵ国目・グアテマラに入った私たち。10月24日だった。

グアテマラでの滞在目的は、スペイン語学校に1ヶ月通うこと。アパートを借り、淳ちゃんとナンチャンが学校に通い始めたのは11月1日だった。

私は、メヒコ最後の街、サンクリストバル・デ・ラスカサスを出る朝から何となく風邪が始まり、その夜泊まったシウダー・イダルゴでも治らず、それでも、こんな蒸し暑いところで病気してられへんわ!と、ちょっと無理してグアテマラに入ってしまったので、Panajachelパナハッチェルに着いたとたん、すっかり風邪がひどくなってしまっていた。旅の疲れもたまっていたんだろう。私はひたすらゆっくりすることにし、学校スタートは遅らせることにしていた。

そうしてあっという間に1週間が過ぎた。学校は金曜まで。平日は宿題がたっぷり出るので、その日習ったことを十分に復習するところまで追いつかない日が多いようだ。淳ちゃんは「ゆっくり勉強できるわー」なんて嬉しそうだ。私たちは最初の週末を、ドーナツを作ったりお散歩をしたりしてのんびり過ごした。

ある日の夕食のこと。ここでの週末は、あと3回しか無いじゃないか!という話になった。1ヶ月しか無いのだから当たり前なのだが、久しぶりに平日と週末という区切りのある生活をしたせいで、「週末」に異常に敏感になってしまっている。平日に遊びに行くのはやっぱり無理なので、ここを拠点に小旅行をしようとすると、週末はやはりあと3回。パナハッチェルでの生活が終わったあと、グアテマラ内をまわるってのもいいな、とも考えた。でも、年末年始を含めた今後の予定を計算してみると、このアパートの契約期限11月29日がグアテマラ滞在のほぼデッドラインになる、ということが見えてきてしまったのだ。

平日・週末のない生活をしている私たちは、クリスマスシーズンもすっかり忘れていた。時間は一応たっぷりあるのだから、わざわざ高い時期に高いお金を払うことはない。12月20日以降は移動しない方がいいだろう。でもよく見ると、12月18・19日は週末だ。だったら、金曜の12月17日、念のため12月16日の木曜も避けるとすると、12月15日までに大きな移動は済ませておかなくてはいけない。

私たちはこの後、コスタリカへ行くつもりだった。コスタリカの後は南米。このルートはどうしても空路で移動しなくてはいけない。でも、年末年始のピークが終わる1月10日ごろまでの約1ヶ月半もの間、コスタリカに滞在するのはちょっと厳しい。年末年始はココも観光客が多くなり、物価も上がるはずだからだ。やはり、ここでの学校が終わったらすぐにコスタリカへ行き、南米への航空券を手配しないといけない。間に合うかどうかは、微妙だ。そして、航空券がうまく買えたら、コスタリカは10日程度の滞在になるだろう、おそらく。

そんな今後の話もしながら、グアテマラ滞在をどう過ごすか、に話題は移った。

私たちは、グアテマラでトレッキングをしたいなあ、と思っていた。

グアテマラは37の火山を持つ火山国だ。今なお噴煙を上げる活火山もある。3,000メートル以上の山は計14山。熱帯であるグアテマラでは雪が降ることはほとんどないので、3,000メートル以上の山でも比較的挑戦しやすいそうだ。

私たちの住むアティトラン湖周辺にも3つの火山がある。アパートの窓から毎朝眺めることができる、サン・ペドロ火山(Volcan San Pedoro 3,020メートル)。そして双子のトリマン火山(Volcan Toliman 3,158メートル)とアティトラン火山(Volcan Atitlan 3,537メートル)。アンティグアの近くには、ハイキング感覚で登れるパカヤ火山(Volcan Pacaya 2,550メートル)や、グアテマラ富士と言われるアグア火山(Volcan Agua 3,766m)。そして、Xelaシェラ(ケツァルテナンゴ)の近くでは、現在も噴煙をあげるサンタ・マリア火山(Volcan Santa Maria 3,772メートル)、そして中米最高峰であるタフムルコ火山(Volcan Tajumulco 4,220メートル)がそびえている。

サン・ペドロ火山ならお手軽だ。パナハッチェルの旅行会社で申し込み、目の前のボートに乗って湖の対岸から登り始められる。もちろん日帰りが可能だ。でも、旅行会社で見せてもらった写真は何だかパッとしなかった。強盗が出るから、単独では登ることができない、というのもやっぱりパッとしない。目の前にある、めちゃくちゃ近所の山なのに、だ。

だったら他の街へ行くしかない。週末を使えば行けるだろう。せっかく他の街まで行くんだったら……やっぱ中米最高峰、行っとく? てな気分になってきた。何でもベストワンのものばかりを攻める趣味はないけれど、アグア火山やサンタ・マリア火山は上級者向けだと言うし、個人でグアテマラにある他の山に登るにはちょっと危険だという。強盗や強姦、そして今なお残る内戦時の地雷……。ガイドツアーの出ている山に行った方がよさそうだ。

よし、タフムルコに行こう!日程は11月20・21日。第3週目の週末になる。この日を目指して、各自トレーニングもしよう! そういうことになった。体調を崩してすっかり体重の落ちてしまった私は、まずは体力を蓄えることから始めなくてはいけない。そして、毎朝、1時間ほど散歩に出かけることにした。ナンチャンは、別コースで毎朝2時間ほど散歩に出かける。淳ちゃんは、というと、すでに毎晩1時間ほどのジョギングを始めていた。ここに住むことが決まった瞬間、「やっと走れるわ〜」と速攻中古のスニーカーを買い、晩ご飯が済むといつもジョギングに出かけていたのだ。なので、特別なことをする必要は特にないらしい。

タフムルコは、シェラの近くにあるので、パナハッチェルからのツアーはない。それでも、いくつかある旅行会社にパナハッチェル発のタフムルコ登山ツアーはできないか、と聞いてまわってみた。結果はノーだった。タフムルコ登山ツアーは、だいたいシェラを朝6時に出発する1泊2日の行程のようだ。だったら、前日中にシェラまで行っておかなくてはいけない。シェラまでチキンバス(旅のアレコレ>チキンバスで行こう! http://www.chiq1.com/a/ura/0009.html に、詳しくあります)で行くなら、金曜の昼に学校が終わってすぐ、バスに乗る必要がある。しかも、日曜の夕方、シェラからここまで帰ってこれるかどうかも微妙なところだ。学校に通いながら、という中でコレはちょっと厳しい。やっぱり、サン・ペドロ火山でガマンしておくべきなのか……。

ところが、たったひとつだけOKを出してくれたところがあった。ジローという青年が切り盛りするKukulkan Travel Agency(ククルカン・トラベル・エージェンシー)だ。彼、本名はJeremias(ヘレミアス)というのだが、呼びにくいのでジローというニックネームを付けたらしい。助かる。ジローは私たちのつたないスペイン語にも、ふんふんとうなずきなから、私たちの希望を理解してくれた。

ひとり110USドル。ジローが出した数字だ。869ケツァール(約13,035円)になる。こっちの物価からすれば、かなりの金額だ。でも、他社でシェラ発のツアーを手配すればだいたい70USドル。前日(もしかして後泊も)のシェラ宿泊代や食事代、交通費を考えれば、まあトントンだろう。1泊2日ですむ、というのも学校のことを考えればとてもラクだろう。

ツアーにはほとんどのものが含まれている。テント、シュラフ、食事3回分(昼・夜・朝)、ガイド、食事用の水、ガスストーブ、ロープ、シェラからタフムルコ登山口までの往復交通費。そして、ジローがアレンジしてくれたパナハチェルとシェラ間の往復送迎。

迎えの車は11月20日(土)の朝5時、家の前までやってきてくれる。そこからシェラまで2時間。そのあと、登山ガイド会社でガイドと合流しタフムルコ登山口へ向かう。登山開始は10時の予定。シェラ発のツアーより1時間遅い。

タフムルコは約6時間で頂上まで行けるという。ネットで拾った日本人旅行者の体験談では、3時間ほどでキャンプ地に着いている。4,000メートル峰とはいえ、登山口の標高がすでに3,000メートル近くあるらしい。意外に楽勝でいけちゃうのかもしれない。


そうして私たちは、11月20日、登山口になる小さな村Pueblo de tajumulcoプエブロ・デ・タフムルコ(タフムルコ村)に降り立った。時間は午前11時過ぎ。シェラからの移動は、チキンバスだった。1時間半ほど行ったサンマルコスという街で乗り換え、さらに山道を1時間弱進む。これだけで、私はくたびれてしまった。2日前からまた風邪気味で鼻がムズムズとしていたが、チキンバスに乗っている間に、すっかり「鼻づまりさん」になってしまっている。

バスは黒煙を吐き、砂を舞上げながら行ってしまった。明日の同じ時間、どんな気持ちでここに立っているのだろう。

ガイドはMarcel(マルセル)21歳。若いくせにすでに6年のキャリアがある。タフムルコ登山はこれで6回目だそうだ。最初は、英語で話しかけてきてくれたマルセルだが、めちゃくちゃスペイン語訛りな英語なので、途中からスペイン語で話をすることにした。ナンチャンは最初からスペイン語だ。

それでは行きますかー、と登り始める。昼食は約30分後。眺めの良い場所で取ろう、と言うことになった。


……何だか調子がおかしい。


最初の30分ぐらいは、めちゃくちゃ息が上がるし汗もたくさんかくものなのだが、これは尋常じゃない。たぶん、「空気が薄い」ってヤツだ。

そう、以前、2,700メートルの乗鞍・畳平で軽いお散歩をした時に感じた、息苦しさ。思い切り吸っても空気が足りない感じ。やっぱり、3,000メートルなんだ……。今さらだけど、ビビリ始める。あと1,200メートル、私は登れるんだろうか……?

マルセルとナンチャンはスタスタ進む。淳ちゃんは、私の後ろをのんびりついてきてくれていた。マルセルもやっぱり、今日のキャンプ場まで3時間ぐらいで行けるという。右手に見え始めたタフムルコ。遠っ。ホンマに行けるんやろうか?今は、まったく自信が無い。

登山には3つの力が必要だと言う。体力・技術・モチベーション。今日は鼻が詰まっているし、病み上がりとも言えるから、体力はない。技術はもちろんない。あるのは、モチベーションだけ。そのモチベーションは、もちろん自分の体調と相談しながら、高い位置でキープしないといけない。今回の登山では特に、モチベーションだけは維持していこうと決めていた。普段、すぐヘコたれる系の私だが、今回は違う。絶対頂上まで行ってやろう、そう思っていた。

なのに、この息苦しさと言ったら何なんだろう。吸っても吸っても足りない気がする。

そういえば……、とダイビングで習った、息苦しさ解消法を試してみる。とにかく、肺がからっぽになるまで吐ききる。苦しい時ほど、吐く。ちょっと楽になる。良い感じだ。でも勾配がキツくなると、とたんにまた息が上がってしまう。

急な坂、と言ったって大したことはない。標高が低かったら何てことのない道だ。なのに、めちゃくちゃ苦しい。

こんな話は聞いていなかったぞ、と思う。富士山はどうだったっけ?登りに行った友達の話を思い出そうとするが、吐いてしまった話か、楽勝で登り切った妹の話しか思い出せない。えーい!役にもたたん!とにかく休憩だ。

マルセルはすっかりヒマそうだ。やっと追いついた私たちが休憩し終わるまで待たなくてはいけないのだから、体も冷えてしまうだろう。飴にチョコ。普段は絶対食べないものでも、とろけそうにおいしい。疲れているんだな、やっぱ。。。

「ここからしばらくは平坦な道だから、ちょっとスピードを上げるよ」マルセルはそう言ってまた歩き始めた。OK〜♪とついていく私。

あかん……やっぱり苦しい。

平坦な道と言っても少しは勾配がある。もうダメだ。どんどん遅れを取っていく。

「ちいちゃんには、無理やったな……」

悲しそうな声が後ろから聞こえる。淳ちゃんだ。もう過去形だ。それはヒドイ。こっちはまだいけると思って頑張っているのに、あっさり結果を出されてしまってはヤル気も半減じゃないか。しかもさっきの休憩の時、私はマルセルに確認しているのだ。私でも行けやろか?と。このペースで無理なようなら、早めにリタイアも考えなくてはいけない。そう、そこまで一応考えているのだ。

私がリタイアになれば、淳ちゃんだって道連れだ。申し訳ないと思う。でも、苦しくなってしまったんやから仕方ないやんかー!とトレイルの真ん中で、ケンカになってしまう。また息が上がる。苦しい……。

とにかくマルセルが間に合うと判断していて、私が無理をしすぎない範囲なら、登山を続けようということになった。体力はまだまだ残っている。疲れているわけではない。でも苦しい。すでに、10歩歩いたら2分休む、てなほど遅い私なのだ。

後半は急な斜面がいくつか続いた。私は、少し歩いては休み、また歩く……を繰り返し、いよいよ遠くに見えていたタフムルコのふもとまでやってきた。日は間もなく、タフムルコの影に隠れようとしている。急がなくては。

頂上アタックをするベースキャンプの標高は約4,000メートル。すでに、富士山より高いところまでやってきている。あと少しだ!

日が暮れ、空が青く沈み始めたころ、私たちはギリギリ、ベースキャンプにたどり着いた。「アニモ!アニモ!」何度聞いただろう。先に進んでいるマルセルとナンチャンがいつも上からかけてくれていた言葉だ。頑張れ!という意味らしい。約6時間の登りだった。

いやいや。今回ばかりは無理かと思ったね。淳ちゃんも意地悪言うしさー、なんて話しかけようとしたら、淳ちゃんがいない。テントを張ったあと、どこへ行ってしまったのだろう。

「ちぃちゃん、お水持ってきて」

か細い声が、テントの中から聞こえた。ん?淳ちゃん?どうしたのー?

今まで絶好調だったはずなのだが、ベースキャンプに着いたとたん気持ちが悪くなって吐いてしまったらしい。そして、吐いたと同時に強烈な頭痛が襲ってきたそうだ。頭痛に慣れていない淳ちゃんは、もうヒヨヒヨだ。

私も登り始めから軽い頭痛はあった。標高が上がるにつれてひどくなってきていたが、普段頭痛持ちなので、こんなものかと思ってしまう。頭痛薬を飲むのもちょっとコワイ。

マルセルの入れてくれた熱いコーヒーは、今まで飲んだどんなコーヒーよりもおいしかった。今、家で飲んでいるグアテマラ・コーヒー・パナハッチェルブレンド(もちろんドリップで。激ウマ)も、到底及ばない。うぉあぁ……。ウマイ……。この世のものとは思えないようなうめき声を上げて、私はコーヒーを飲む。ナンチャンがくれた薄味だったはずのビスケットも、ミルクの香りがして甘くてめちゃくちゃおいしい。淳ちゃんは、テントで寝たままだ。かわいそうに……。

気温は坂を転げるように落ちていく。この時期氷点下まで下がる、と聞いていたので、私は持ってきたダウンジャケットにダウンパンツで体を包み込む。それでも冷気は体にスウッと入ってくる。マルセルが火を焚いてくれた。

ベースキャンプにはトタンの屋根がある。焚き火をするスペースも取ってある。ここまでは良いとしよう。やっぱり屋根があれば便利だし、寒いから火もおこしたい。ヒドイのはゴミの量だ。それも散乱している、と言った方がいい。ペットボトル、スナック菓子、トイレットペーパー。カップヌードルの食べ残したまま、なんて輩もいる。許せない。

持って降りるわけにもいかないから(どうしてだろう?)、こうして燃やすんだ……。マルセルはそう言って、私たちがみるにみかねて集めたゴミを燃やし始めた。1.5リットルのペットボトルも1ガロンのプラスチックボトルも容赦なく燃やす。それもどうかと思うよ……そう思ったが、どこまで口を出していいものか躊躇してしまう。ガイドとしてこの山で仕事をしている以上、山を美しく守るのは彼らの義務だと私は思う。たとえ彼らが、他人の捨てたゴミを持ち帰らなくても、持ち帰るよう登山者を啓蒙することや、ゴミが極力出ない形で食料などを支給することはできるはずだ。個人で来る登山客にまで徹底させるのはなかなか難しいことだけれど……。

結局、今日は大きなゴミ袋を持ってきていないので、とにかく燃やしてゴミを減らすことにした。「割れたガラス窓の法則」だ。少しでもキレイにしてあれば、食べかけのカップヌードルをそのまま置いて帰ることはしないだろう。とにかく、目につくゴミを無くすのが今できるベストのはずだ。

それにしても情けないなーと思う。この山に登山をしにくるその多くは、おそらく欧米人だからだ。彼らは自分の国でもこんなことをするのだろうか?

そんなところで、私たちは支給された晩ご飯を食べることにする。カップラーメンだ(これがいけない!)。あとはソルトクラッカーのみ。うーん。昼のサンドイッチといい、ちょっと少ないぞ。途中で食べようと思って持ってきた、おにぎり(これは普段の7倍もするササニシキ系のお米。冷めてもおいしいくてお腹にたまる。おまけに具は手作りの肉味噌。これがウマイ!)を、残しておいてよかった。かじかんできた手を湯気にかざしながらハフハフ食べる。淳ちゃんは、やっぱりまだテントの中。食べられそうにないらしい。持ってきたセルベッサを開ける音を聞いて「よぉそんなん飲むなあー」なんて声がテントから聞こえてくる。かわいそうに……。

しばらく火にあたってから寝ることにした。20時だ。明日は朝5時30分起き。日の出前に山頂に登り、中米一高い場所から日の出を見る。ここから約20分。でも、今日の私のペースでは、20分は無理だろう。40分はかかるに違いない。ま、でも明日の朝には体が慣れているかもしれへんしな、そう前向きに考え、シュラフに潜り込んだ。

「高地に来ると、眠りが浅いねんてな」

隣で淳ちゃんが、か細い声で言う。結局、白湯を飲んだだけだ。かわいそうに……。

疲れていたんだろう。あっという間に寝てしまったようだ。

でも、あっという間に目が覚めてしまった。淳ちゃんが言っていたのはこういうことだったのだ。 痛っ!おまけに頭が割れそうに痛い。最悪だ。そんでもって、背中から冷気がはい上がってきている。眠れそうにない。

そうやって、たぶん1時間ほど寝て目が覚めて、しばらく眠れずトウトして眠っていき、また目が覚めて……を朝まで繰り返したようだ。目が覚めるたびに、頭も割れるように痛かった。とんでもない苦痛だ。

淳ちゃんも何度も寝返りをうっていた。

鳥の声がする。朝がきたようだ。こんな高所にも鳥はやってきて口ずさむのだ、ということにちょっと驚く。約4,000メートル地点のこのキャンプ地には、背の高い松の木がまだ普通に生えている。

マルセルが入れてくれたコーヒーをすすって、頂上へ向かうことにした。相変わらず頭は痛い。淳ちゃんもなんとか起きあがってきた、という感じだ。

頂上へは40分どころか、1時間以上かかってしまった。あっという間に、熱帯の太陽がジリジリと私たちを照らす。でもさすが4,220メートル。風は強いし、空気も刺すように冷たい。やっとたどり着いた、中米で一番てっぺんの場所。やっぱり、一番高いということにはそれほどの感慨は無いけれど、ここまでやりきったことに、なかなかの満足感がある。今度こそ、自分の足で登り切った。荷物だってほとんどハンデ無しで担いでいる。無理だって言われたのに、ここまで来ることができた。ささいなことばかりだけど、嬉しいことばかりだ。

「ちいちゃんけっこう頑張ったんちゃうーん?」

だいぶ調子が戻ってきた淳ちゃんが言う。今回の登山はかなり良い経験になったなー、と満足げだ。じゃあこれから、アコンカグアとかキリマンジャロに登っちゃうのか、と言うとそういうわけでもないのだ。背伸びしてもちょっと届かないくらいのチャレンジ。私たちに可能な範囲で、こうやってトライ&達成できることが楽しいのだろう。ま、今回は2人とも高所にやられてしまったので、高さを競う登山はもういいかなー、とも思っている。南米に行けば、4,000メートル地点を走るトレイルなんてのもある。どこまで自分たちが楽しくトライできるのか、体と相談しながら決めていこうと思う。

鼻歌なんて歌っちゃいながらベースキャンプに帰ってくる。30分後には出発だ。荷物をまとめ始めると、お気に入りのマグライト(懐中電灯)が無いことに気づく。あれ?シュラフに紛れて入れちゃったかな? その程度にしか思っていなかった。 シュラフをもう一度広げる。 無い。 ま、どこかにあるだろうと片づけを進める。 あれ?カメラも無い。 お気に入りのアナログカメラGR1-vの姿もないのだ。頂上アタックが思った以上に岩場っぽかったので、テントに置いて出かけていた。でも無い。

あかん、やられたわ……。

どうやらラドロン(泥棒)が現れたらしい。たぶん、狙われていたのだろう。
手っ取り早く盗れるテントの中、手前に置いておいたものだけ無くなり、しまい込んだ財布などはみな無事だ。マルセルが申し訳なさそうにしている。いや、用心が足りなかった私が悪い。それにしても悔しい。GR1-vは高価だから保険がきくだろう。それより、マグライトだ。あれはここ数年使い続けたお気に入りのライトで思い出も詰まっている。か、返してくれ。。。

無理なのはわかっている。もう、忘れるしかない。

あー、それにしても悔しい!山のてっぺんで悪事をはたらく根性が許せない。

言っても仕方がないので、下山することにした。

帰りは2時間半で降りてきた。もちろん、息はまったく上がらない。朝の疲れが少し出た程度だった。淳ちゃんは、ずいぶん後ろをしんどそうに降りてきた。また一気に標高が変わってシンドイのだろう。

案の定、また途中で吐いていたそうだ。かわいそうに……。






▼タフムルコ火山・登山の覚え書き

・パナハッチェルからのツアー会社

 Kukulkan Travel Agency

 ジロー(Jeremias Buch)のいる会社です。
 とにかくジローが優秀!結局、盗難証明をジローの会社で
 作ってもらうことになったのですが、レターの作成・社長の
 ハンコなどなどすべてを1日でやってくれて感謝感謝です。
 私たちの話すスペイン語にも本当によく付き合ってくれました。
 他社でNGと言われたツアーアレンジもできるので頼りになります。


・ガイドのマルセルが所属する事務所

 Off Road Tourism

 食料の受け取りやシュラフのレンタルなどはどうやら別の
 オフィスでやったような気がします。
 そっちはMountain Tours。細かい違いがよくわかりません。
 ゴメンナサイ。
 私はこのMountain Toursのオフィスにいた犬に、昼食の
 サンドイッチ2つ、あっという間に食べられてしまいました!
 めっちゃ行儀悪くて許せん!
 Mountain Toursのスタッフは何だか慌ただしくて、
 ちょっと素っ気ない印象。盗難の件も、パナハッチェルで
 証明取ったらいいから、と車に乗せられてしまった感じ。
 信頼感はちょっと薄い感じかなー。



・ツアーに含まれていたもの

 ・テント
 ・シュラフ(コールマンのめちゃくちゃ分厚いやつ。ナンチャンはコレ+
 薄手ダウンシュラフで全然寒くなかったそうです。分厚いといっても、
 キルティングっぽいからそんなに暖かそうには見えませんでした
 が……)、
 ・食事3回分(1日目昼:サンドイッチ2つ、ジュース、クッキー 1日目
 夜:カップ麺、クラッカー 2日目朝:粉末乳、グラノーラ プラス紅茶
 20パック、インスタントコーヒー3杯分、砂糖1LB、食事用水1ガロン、
 ペットボトル水500ml×3本、紙ナプキン、プラスティックフォーク&ス
 プーン、プラスティックコップ)
 ・シェラから同行のガイド
 ・ガスストーブ
 ・ロープ


・各自持ってくるよう言われたもの

 ・ナイフ
 ・大きなバックパック
 ・防寒着
 ・トイレットペーパー
 ・水 3人で2ガロン(約7.5リットル)
 ・ライター
 ・行動食(おやつ・フルーツ)


・持っていった方がいいもの
 ・手袋(寒い!私は軍手と毛糸2つ持っていきました)
 ・ニットキャップ(寒い!耳が痛い!)
 ・懐中電灯(盗られましたが)
 ・ゴミ袋(最低限自分の分だけは)



・おおまかなスケジュール(シェラ発なら6時スタート、9時登頂開始)

 1日目:朝7時シェラのオフィス着 食料を各自リュックに入れ、レンタ
 ルするものは借りてバスターミナルへ → カミオネータにてサンマ
 ルコスまで(約1時間30分) → サンマルコスにて乗り換え (約1
 時間)→登山口 登頂開始11時 → 本当なら14時過ぎキャンプ地
 へ到着予定が、17時過ぎ着

 2日目:5時30起床 山頂登頂 → 8時ベースキャンプで朝ご飯 →
 9時下山開始 → 11時30分登山口 → 15時前シェラ着




・申し込みはしなかったけど、検討していた会社

 ADRENALINA TOURS
 http://www.adrenalinatours.com

 シェラには、他にもガイド会社が5社ほどあるそうです。





[今回使った足と宿]


▼アパートを借りているので宿はナシ

▼カミオネータでの移動だったので会社名不明


グアテマラ シェラ サンタ・マリア火山
シェラの朝もや。遠くに見える火山がサンタ・マリア火山。今も噴煙が上がっています。

 
グアテマラ タフムルコ火山
支給品が並んでいました。これで、3人分。ゴミを減らす努力をまったくしていない!といった感じですね。黄色のロゴが目立ちますがコレ「スリ」という激安ラインのメーカー。日本で言うプライベートブランドに近い感じです。これについては、パナの回で。

 
グアテマラ タフムルコ火山 シェラ オコーテ
シェラのバス停にて「オコーテ」を調達。これは焚き火の時、火付け木の役割を果たします。ユーコンで言うとスプルース。マヤン・ケロシンってところですね。

 
グアテマラ タフムルコ火山 シェラ バス
シェラのバス停。今からこのバスに乗ります。バスに乗るためだけなら楽しいんですけどね。移動に使うと疲れます。居眠りすると前にあるつかまり棒に必ずオデコをぶつけます。これが痛い。

 
グアテマラ タフムルコ火山 サンマルコス バス
乗り換えのサンマルコスのバスターミナルにて。最後のメルカド。ま、特に買うものありませんけれど。

 
グアテマラ タフムルコ火山 サンマルコス バス
バスの中にはたくさんの売り子さんがきます。私は大好きなピーニャ(パイン)を2ケツァール(約30円)で食べました。細長いピーニャが4本ぐらい入っているのでかなり満足。奥のおっちゃんは頭痛薬の宣伝演説中。

 
グアテマラ タフムルコ火山 サンマルコス バス
がんがん山を上がると、爆音とともにパンク。交換も速いです。慣れてはるわ。

 
グアテマラ タフムルコ火山 サンマルコス バス
いよいお登山開始。ここ?てな場所。自分では絶対わからへんし、バスも降りられません。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
登り始めてスグ。あれ?めちゃめちゃシンドイぞ。おかしーなー、てな時です。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
前を行くナンチャン。前方右手に見えるのがタフムルコ4,220メートル。遠いなあ。。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
まずは昼食です。私は事務所のバカ犬にお昼のサンドイッチを2つとも食べられてしまったので、マルセルの分を半分もらいました。ありがとう、マルセル。。。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
後方の斜面で放牧しながら暮らす女の子たち。登山者が来るたびにお菓子をねだりにくるよう。飴やチョコをあげた代わりに写真を撮らせてもらいました。安易にあげてしまったあと、この子たちに歯磨きの習慣があるんだろうか、と不安になります。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
再び歩き出します。タフムルコ、少しは近くなったかな?

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
そろそろ、日が暮れかけてきました。急ぎ気味に先を行くマルセルとナンチャン。私は「えー、もう行くのー」てな感じですねぇ。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
で、スイマセン。キャンプ地に着いたらすっかり写真を撮るのを忘れて、これはもう早朝の風景。約4,000メートル地点でこんなに木が生えています。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
山頂から見るはずの日の出……。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
すっかり明るくなってしまいました。厚着をしてきたので暑い暑い。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
あと少し、うーん、こんなところを登るのか……。酸欠でちょっと頭がクラクラ気味。とにかく一瞬でも気を緩めないよう、慎重慎重に登ります。

 
グアテマラ タフムルコ火山 登山
いよいよ、最後。あのてっぺんは中米で一番高い場所。あと少しあと少し。アニモ!

 
グアテマラ タフムルコ火山 山頂
着きました!やったー!遅かったけど、私でもできました!3人で記念撮影。淳ちゃん、間に合っていません。

 
グアテマラ タフムルコ火山 山頂
で、もう一度撮った一枚。

 
グアテマラ タフムルコ火山 サンタ・マリア火山 アティトラン湖
遠くには噴煙を上げるサンタ・マリア火山や、私たちの街パナハッチェルにある3つの火山まで見えます。ちょっと光っているように見えるのがアティトラン湖。

 
グアテマラ タフムルコ火山 山頂
マルセルとも一緒に撮りました。後ろはメヒコ方向。

 
グアテマラ タフムルコ火山 山頂
ナンチャンに写真を撮ってもらいました。私は目をつぶっているし、後ろの風景は何もないんだけど、淳ちゃん、ええ顔です。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
そして下山。あら、全然苦しくないのね……。急に元気が出てきます。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
頂上付近はさすがに火山っぽいですね。遠くの雲海もすばらしい。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
下に見えるのがベースキャンプ。谷間にあるので思っていたよりは寒くありません。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
しばらく下って、もう一度見上げたタフムルコ。うーん、よくぞ、あのてっぺんまで行ったものだ!自画自賛。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
下りはハイペース。膝が笑う以前に、やっぱり頭痛が……。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
体がついていかなかった淳ちゃん。途中で吐いていたよう。かわいそうに……。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
ゆっくり降りてくる淳ちゃん。行きはこの丘を登るのもひと苦労でした。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
登山口まで、あと少し。タフムルコの姿もわずかにしか見えません。さようなら、タフムルコ。もうたぶん一生来ないだろうし。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
ガイドのマルセル。こんな遅い私に付き合ってくれてありがとう。服はまあまあいいものを着ていましたが、靴はなんと底がすり減ったスニーカー!たいそうなトレッキングシューズでトロトロ歩く自分が情けない。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
バスを待っています。これは反対方向。はやく街へ降りてコーラ飲みたいなあ、アイスもいいなぁ……なんて煩悩だらけ。

 
グアテマラ タフムルコ火山 下山
いろいろ力になってくれたジロー。優秀な青年です。ありがとう!




▼PART24 2004.12.05 パナハッチェルでプチリタイヤ生活 〜グアテマラ・アティトラン湖畔
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