World Odyssey 地球一周旅行

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旅の日記
見たもの、乗ったもの、食べたもの…たくさんの驚きを写真と一緒にお伝えします。



▼PART13 2004.08.14 乾かない靴下・ふやける手
>>グレイシャーベイ国立公園[3]



テントを叩く雨の音で目が覚めた。天候は回復していない。風も強いみたいだ。起きたばかりで、速攻ブルーな気持ちになる。

昨日の夜、予定通り生理が始まってしまった。最悪な体調だ。
ゴソゴソとみんなが起きる気配がする。

やっさんのテントで寝たキヨさん。整地が完璧ではなかったらしく、坂に落ち込むように寝ていたらしい。

やっさんがルート変更の提案をしてきた。

昨日船を降りたのは、ギルバート半島の南端に位置するブルーマウス・コーブ。私たちは昨日、その半島の右側を北上していった。目の前は幅5キロ以上もあるグレイシャー湾の大海原が広がっている。このルートはあまりにも風と波が強いので、もう一度ブルーマウス・コーブに戻り、その裏側、半島の左側にあるシッドモア湾を漕いでいったらどうだろう、というものだった。こっちの湾なら最大でも幅3キロ。海岸沿いに進めば何とかなるかもしれない。

戻るといってもたいした距離じゃないので、誰も反対しなかった。

昼前、小さなキャンプ地をあとにした。
実はその前、私の生理でちょっとしたトラブルがおこっていて、私たち夫婦のフネは泣く泣く(私なんかは本当にボロボロ泣いてしまっていた。情けない)、リタイヤせざるを得ない状況に陥ったりもしていた。今、それも何とかクリアし、晴れて6人全員での再出発ということになる。

突然、海面へ真っすぐ突き刺さるような背びれが目に入った。シャチだ。英語でキラーホエール(殺し屋クジラ)というだけあって、サメが来たのかと思うような登場のしかたである。本当は別名オルカとも言ってとても賢い動物なんだが、その時の私たちは本気で、殺られるー!と慌てて漕いで逃げていた。シャチは、関係ないわーといった風に消えていった。

ブルーマウス・コーブには今日のピックアップを待つ女の子が3人待っていた。激しい雨が降るなか、膝を抱えてしゃがみ込んでいる。昨日、1泊2日で来た子たちだ。

目の前に島が2つあるはずなのだが、どれが島なのか判断ができない。干潮を過ぎたばかりで、地形が大きく変わっているのだ。現在地すらわからなくなってきた。

その間に、やっさんチームのフネではトラブルが起こっていた。2人のコミュニケーションがうまく取れず「旅、続行不可能!」とやっさんがジャッジしてしまったのだ。

  「とにかく、もう一度岸に上がろう」

そう誰かが言って、しょんぼりとした3艇は昨日ボテボテと荷物を落とされたブルーマウス・コーブに戻る。

本当に辞めちゃうんだろうか。そしたら私たちだけでは無理だよね。そしたら、バートレット・コーブに戻ってホエールウオッチングでもしようか。

キヨさんとアヤッペ、私たち夫婦はそんな話を輪になって続ける。やっさんチームも協議を続けている。帰るなら、14時の船が来てしまうまでに決めてしまわなければいけない。

  「何や、石川家の笑顔見てたら、行く気になってきたわ」

今度は私たちが、リタイヤするかどうか話していたのに、やっさんがそう言って輪の中に入ってきた。

  「よーっしゃ!そうしよ!みんなでジョンホプ(ジョン・ホプキンス
   氷河:以下同)まで行ってしまおー!」

淳ちゃんのひと声で、もろくなって崩れそうだったみんなの気持ちが固まった。

昨日と同じ時間にやってきた船に、もう一度現在地を聞き、半島の左側、裏手の湾へ抜ける道を教えてもらった。やはり、遠くで行き止まりのように見えた海岸が、少しだけ開けていて水路になっているらしい。

帰りのピックアップの場所も、湾を横切らなくてはいけないクイーン・インレット【地図G】から、ここブルーマウス・コーブに変更した。どうしても進めなかったら、またここまで戻ってきたらいい。そう思ったら、少し安心して進めそうだ。

目標も見えてきた。半島の最後は、タイダルフラットと言って満潮時しか通れない場所だ(ちょうど【地図H】のところ)。今日の満潮は18時11分。それまでに湾を縦断し、タイダルフラットまでたどり着かなければ、明日の朝の満潮時まで通れなくなってしまう。満潮まで4時間弱。タイダルフラットまで15キロくらい。間に合うだろうか。

雨はいっこうに止む気配がなかったが進むしかない。水位が少しずつ上がり、わかりやすくなってきた水路をいくつか抜けて、湾に出た。波は穏やか。これなら行けそうだ。

波はたいしたこと無いのだが視界が悪い。突然カヤックの横で、ブシュゥッ!と呼吸音がした。色と大きさからいってネズミイルカのようだ。何度も海面に上がり、呼吸を続けている。私たちは「お邪魔しますぅー」と言ってできるだけ静かにパドルを動かした。こんな近くで、呼吸する別の生き物。ただただ恐ろしく思えたこの海が、少しだけ別の顔を見せ始めている。体温を感じる海になってきている。

タイダルフラット18時着。満潮に間に合った。ギリギリ1艇通れるような水路を進んで、私たちは再び大海原に出た。今日は、この先もう少し進んだ平らなところでテントを張ろう、ということになっている。水は、バートレット・コーブで汲んできたものが大量にあるので気にしなくてもいい。

開けた海岸が見えてきた。今日のキャンプ地にちょうどいい。向かって右手にはクリークもあるようだ。

雨に打たれすぎだ。ゴアテックスの上着は袖から浸水が始まっている。寒くて中に着ていたダウンジャケットは、ひじまで濡れてしまった。岸に上がる時には長靴が浸水してしまったので、ニットの靴下もずぶ濡れだ。淳ちゃんは横波がスプレースカートの縫い目から進入してきていて、下半身もぐしょ濡れ、上のカッパもベタベタでひどい有様だ。

みんな、同じ状況だった。

とにかく着替えたい。そう思っても、着替えられる服はほんのわずか。インナー類しかないのだ。上着や防寒着の替えまであるわけがない。仕方なく、濡れた服を上から重ねる。

  「もう、外に出たくないわぁー」

長袖インナーとニットスパッツ1枚という情けない格好で、テントの中から淳ちゃんが言った。淳ちゃんもこれ以上乾いた服がないのだ。

食べ物の臭いが付いてクマが来るといけないので、テントの近くで料理をしてはいけないことになっているが、今日はもう緊急事態。クマがテントの中を覗いたら、ベアスプレーで退治することにして、各自晩ごはんにする。淳ちゃんはテントの入り口から顔だけ出してラーメンを作っている。

足が冷たく湿っていたがとにかく寝た。
明日こそ、天気が回復しますように……そう祈って、目を閉じる。

翌朝、テントを叩く雨の音がしないことに気が付く。少しマシなようだ。濡れたままのフリースをはおって、朝ご飯を食べる。靴下は、2足とも乾いていない。仕方がないので濡れたまま履くことにする。うう、気持ち悪ーーい!

ちょっとだけ明るくなってきた。太陽の気配を感じる。

  「あたしら、ジョンホプまで行けるんちゃう?」

ウキウキし始めて淳ちゃんに聞いてみる。

  「何言ってんねん、行くにきまってるやん。ジョンホプやで。
   あのジョンホプ手前まで、俺らは来てんねん。行くよ、絶対」

昨日まで、頭の隅にずっとあった「リタイヤ」という単語は、もうすっかり消えてしまったようだ。よし!私も気合いを入れ直して行くとするか。よくよく考えたら、ユーコン川のカヌーの時はひどく疲れたものだけど、今回はそんな疲れ方をしていない。ちょっと雨に打たれすぎてヘコんでいるだけだ。

みんなの表情も明るくなってきている。今夜こそみんなでカレー食べましょう!とキヨさんも張り切っている。彼は、大好きな玄米で作ったカレーライスをみんなにも食べてもらいたい!とずっと言ってくれていたのだ。

さあ、出発だ、という時だった。私たち夫婦を、残りの4人が見つめている。何も言わずに。たまに誰かの視線が、さっきまでテントを張っていたあたりに動いている。

もしや。と思いその方角を向いてみた。クロクマだ!ブッシュ(藪)と海岸線の間、ちょうど私たちがテントを張っていた砂利浜を、フンフン臭いを嗅ぎながら歩いている。私たちには気づいていないらしい。そーっと淳ちゃんが、ベアスプレーを手に持つ。いつ何が起こってもいいように、だ。

そのままクマは行ってしまった。みな、ごはん時に遭遇したらまずかったねー、と口々に言いながら出発の準備を続ける。私が伝染させてしまったので、現在グループ内の女性3人とも生理中だ。もしかして血の臭いでー!?と心配になるが、トイレのあと片づけや廃棄物の始末をきちんとしていれば基本的に大丈夫らしい。どっちにしてもトイレはひとりで行かなくてはいけないから、怖いことに変わりはない。

この日はそれからどんどん天候が回復していった。夕方には、青空が見えてきていた。レイド氷河を越え、ランプルーフ氷河を過ぎて、まだまだ私たちは進んだ。海面には氷が浮かび始めている。

今日、3日目のキャンプ地はジョン・ホプキンス氷河のあるジョン・ホプキンス・インレット(ジョン・ホプキンス入り江)の入り口だ。そこからジョンホプまでは片道約10キロ。1日で往復するギリギリの距離だという。

ジョン・ホプキンス・インレットの両岸は険しい崖になっていて、キャンプできそうな浜が無い。行きの観光船からチェックしたスモールキャンプでさえ実際に行ってみたら、落石の危険もあってとても寝れるような場所ではなかった。私たちは少し戻って、この浜を「ジョンホプアタック」のベースキャンプにすることにしたのだ。

なかなかエクセレントなキャンプ場だった。すぐ脇に、使いやすいクリークが流れ、4つのテントも問題なく張れる。カヤックを上げておくスペースも十分ある。目の前はトペカ氷河。氷河から吹き降りる風がちょーっと冷たいけれど申し分ないキャンプ場だ。

明日のジョンホプアタック成功を祈って、キヨさんのカレーをみんなで食べた。いつもみんなから「米、炊きすぎー!」と責められるキヨさんだが、今日はみんなに内緒で9合炊いたらしい。お腹ペコペコだった私たちは、気づかずにペロリと食べてしまった。初めての雨が降らない夜。快適だ。日が暮れるまで、濡れてしまった全部の荷物を少しでも乾かそう。結局、靴下は乾かないまま1日中履いてしまった。ずっと素足で長靴を履いている淳ちゃんの足は、異常な臭いを放って女子チームに嫌がられている。そういう私の足だって少しクサイけど。

明日はジョンホプアタック。クマが出ないように、燃やせなかったゴミにはブリーチ(漂白剤)をかけて寝ることにしよう。テントの中にはベアスプレー。これを入れておくとクマが出ない、というジンクスがあるようだ。

隣のテントからはイビキが聞こえてきた。キヨさんかアヤッペ、どちらかだ。






▼カヤックツーリング・データ

7/22 ブルーマウス・コーブ【地図E】〜すぐ裏の海岸【地図F】
   走行距離:約1.5キロ 総走行距離:約1.5キロ


7/23 すぐ裏の海岸【地図F】
   タイダルフラットを過ぎたクリーク【地図H】
   走行距離:約18.5キロ 総走行距離:約20キロ


7/24 タイダルフラットを過ぎたクリーク【地図H】
   ジョンホプ手前のエクセレントキャンプ【地図K】
   走行距離:約18.5キロ 総走行距離:約38.5キロ



[今回使った足と宿]

▼公園内のバックカントリーキャンプ

Glacier Bay National Park and Preserve
http://www.nps.gov/glba



[今回訪れたところ]

▼シー・オッター・カヤック
SEA OTTER KAYAK
http://www.he.net/~seaotter/

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック ブルーマウス・コーブ
ブルーマウス・コーブに帰ってきたアヤッペ。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック ブルーマウス・コーブ
ブルーマウス・コーブに帰ってきたキヨさん。足元寒そう!

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック ブルーマウス・コーブ
ブルーマウス・コーブに帰ってきた私。
カラ元気。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック
水路に入っていきます。
遠景を見るクセがついていないので
とてもわかりにくいです。
おまけにこの視界。最悪。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック タイダルフラット
タイダルフラットを抜けて、ふたたび大海原に漕ぎ出した時。キッツイ感じです。
ホンマ、勘弁してー!

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック
手がふやけてブニョブニョになってしまいました。濡れて絞れるほどでも、軍手があるのと
無いのでは大違いなのではめています。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック
雨が上がった朝。みんなボロボロの顔をしていますがちょっと気持ちが上向いています。
向かって左の我が家のテント、
2980円の安物なので崩壊寸前です。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック 氷河
晴れ間が見えてきました。奥は氷河です。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック ターミガン・クリーク クマ
休憩したターミガン・クリークにて。
ここも、いかにもクマが出そうな場所。生理になってしまった女子3人で、クマへの恐怖を語りあっています。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック
ヒマになった男性陣は、こーんな写真を撮って待っていました。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック ランプルーフ氷河
ランプルーフ氷河につきました。スゲー!

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック 氷河 氷山
崩れ落ちた氷河でできた氷山がプカプカ浮かび始めています。氷山の一角、なんて言いますが、私たちの見た氷山は意外と見たまんまが多かったです。中にはグルングルン回る氷山とかあってびっくりしましたが。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック キャンプ
観光船から見たらただの小さな空き地にしか見えなかったエクセレントキャンプ。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック
上からみるとこーんな感じです。

 
グレイシャーベイ国立公園 カヤック
ちょっとピンぼけ。とにかく全ての荷物が濡れてしまったので、少しでも乾くように並べ倒しています。




▼PART14 2004.08.16 ジョンホプ到達! 〜グレイシャーベイ国立公園[4]
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