World Odyssey 地球一周旅行

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旅の日記
見たもの、乗ったもの、食べたもの…たくさんの驚きを写真と一緒にお伝えします。



▼PART10 2004.08.10 レイク・ラバージュで青春合宿
>>ホワイトホースの仲間たち



カーマックスを19時に出た私たち。ホワイトホースにはその日の21時に到着した。カヌーなら7日間もかかるのに、ハイウェイをぶっ飛ばしたらたったの2時間で着いてしまう。得しているのか損しているのかどっちなんだろう。現代の人間というのはどうやらずいぶん猛スピードで動いているみたいだ。

ホステルに戻り、7日ぶりのシャワーを浴びて眠りについた。

次の日は天気が良かったので、予想以上に使い倒しているアウトドアギアを整頓することにした。テントやシュラフ(寝袋)を干し、カッパ代わりのアウターも洗って干す。ツンドラを歩いてホコリだらけのトレッキングブーツを磨き、川泥が詰まった長靴の底を洗った。1日3回しっかり使ったツールナイフも隅に詰まった野菜カスを取り除いて磨き直す。アンカレジで買ったMSRのストーブはススを落としながら磨く。

普段は、脱いだ順番に服が落ちているくらい後片付けをしない淳ちゃんだが、道具に関してはトコトンうるさい。いわゆるメンテナンスというものを大切にする人なのだ。私なんかは自転車のタイヤの空気もベコベコになってからやっと入れる方なので、そんな私の道具に対する無頓着さは淳ちゃんから見ると信じられないらしい。私からすれば、着た洋服をまったく片づけない淳ちゃんが、大切な靴や時計、キャンプ道具だけをせっせと磨いている方が不思議なのだ。
これって男と女の違いなんだろうか。

今日の宿は、ホワイトホースにもうひとつあるホステル「Hide On Jackell Guesthouse(ハイド・オン・ジャッカル・ゲストハウス)」。ずっと宿泊していた「「BeezKneezBakpakers(ビーズ・ニーズ・バックパッカーズ)」がいっぱいになってしまったので、すぐ裏にあるハイド・オン・ジャッカルに移ってきたのだ。

この2つの宿はどちらも居心地が強烈に良い。どちらも1泊1人20カナダドル。テラスには自由に使えるバーベキューセットがあり、キッチンの装備も充実している。先客が残していったフリーフード(みんなで食べていい食料)も豊富だ。マカロニや缶詰、冷蔵庫の中には牛乳やサラダが残されていることもある。カヌー旅から帰ってきた人が、残った食料を大量に置いていくこともあるのだ。私たちもフリーフードを使った献立作りがずいぶん上手くなってきている。

ちょっとガタイの良い女の子が近づいてきた。朝すれ違った時、英語で挨拶をした子だ。

  「淳二さんですよね?さっき図書館に行ったらやっさんに会ったんですけ
   どふたりが暇そうなら連れてきてって言われたんです」

ハキハキと元気の良い彼女はサッチン。カナダでワーホリ中の27歳だ。日本へ帰国する前にカナダ全土とアラスカを旅している途中で、ホワイトホースへは私たちと同様ただの乗り継ぎ目的で寄っただけだ。ところが、私たち夫婦と純子さんがユーコン川に旅立ったあとヒマになってしまったやっさんに誘われ、しばらく一緒に遊んでいたんだという。彼女の滞在も一週間を過ぎようとしている。ホワイトホースにはどうやら旅人を掴む魔力があるみたいだ。

そんな話をしながらやっさんの待つ図書館へ向かった。ホステルから歩いていける距離だが、マウンテンバイクはタダで借りられるので自転車で突っ走る。

  「どうでしたか?ユーコン川は。楽しかったでしょ」

相変わらず不敵な笑みを浮かべてやっさんが登場する。めちゃめちゃヒマそうじゃないですか、と突っ込むと19日から撮影に行くグレイシャーベイ国立公園の下調べをしているのだという。

せっかくなのでお茶でもしようか、と私たち夫婦、やっさん、そしてサッチンと4人連れだって、ホワイトホースで一番お洒落といわれるカフェに向かった。

まずはやっさんにレイク・ラバージュのことをたださないといけない。ドシロートな私たちが本当に1日で越えられると思っていたのだろうか。

  「だって5時に起きてないんでしょ。そりゃ無理やわ。それに休憩しすぎ。オレならカヤックで8時間で行けるけど、カヤックより遅いカヌーってことと、シロウトってことで4時間多く見て12時間で行けると思ってんもん。6時に出たら夕方着いてたのに」

そうかー。12時間ぶっ続けで漕ぎまくる体力も期待されていたんだ。そりゃ無理だわ。それにやっさんはユーコンのカヤック大会で優勝しているほどの腕前なのだ。そんな人と同じレベルで計算されても達成できるはずがない。

  「それでも楽しかったやろ?
   オレ、絶対この2人やったら楽しめると思ってん」

もうすっかり得意げな顔のやっさん。どうやら本気で自分の好きなものを勧めてくれたのだとわかってくると、その笑顔も憎めないものになってくる。

そうして私たちは18時の閉店ギリギリまで、まったりとお茶を続けた。
私たち夫婦の次の目的地も、ここで決まった。

7月19日からお客さんとグレイシャーベイ国立公園へ写真を撮りに行くやっさんに、ついていくことにしたのだ。ただし、今日は7月6日だからあと13日、ホワイトホースで過ごさなくてはいけない。それでも私たちは、写真家が撮りたい景色をおすそ分けしてもらえるチャンスはなかなか無いよなー、とやっさんの出発を待つことにしたのだ。

グレイシャーベイ国立公園は私たち夫婦も、もともと行く予定にしていたところだ。だが、事前に公園内の情報をあまり得られなかったので、どうやって遊んだらいいのか正直つかみ切れていなかった。とにかく公園入口の小さな街、ガスタバスに行ってみるしかないねーと言っていたくらいだ。

もちろんやっさんは写真を撮りに行くぐらいだから豊富に情報を持っている。何より、彼のプランはグレイシャーベイ国立公園内を8日間カヤックでまわる、というものなのだ。ドシロートの私たちだけでは到底不可能なこのプラン。 2週間くらいホワイトホースで待つだけの価値は十分にある。

その時は、やっさんが出した「レイク・ラバージュを12時間で超えろ」指令がいかにハードだったかすっかり忘れていた。

  「大丈夫、行ける行ける。一緒に行ったらきっと楽しいで」

そう軽ーく誘ってくれたやっさんの言葉を、またまた真に受けていたのだ。

そうと決まったらまずはバスのキャンセルだ。ユーコン下りが無事終わった今朝、グレイシャーベイがある東南アラスカ方面の玄関口・スカグウエイまでのバスを、フェアバンクスからのバスでお世話になったヘンリーのところで予約していたのだ。ヘンリーのオフィスもすぐそばだ。ホステルまでの帰り道、寄ってみることにする。

やっさんとグレイシャーベイに行くことになったので、キャンセルしたいと話してみた。ヘンリーは、全然問題ないよーと何度も繰り返し言ってくれ、おまけに中に入れと誘ってくれる。

結局、牛のスネ肉と豆を煮込んだスープとご飯、ビールまでごちそうになってしまった。ヘンリー、本当にいいやつだ。彼のオフィスの地図には友達になった世界中の人たちのサインがぎっしり入っている。私たちも四日市の位置にピンを刺してサインを書いた。ヘンリー、私たちのこと覚えていてくれるかなー。

19日の出発まで時間がたっぷりあることやし、レイク・ラバージュのキャビンに遊びに行かへん?とやっさんが誘ってくれた。私たちがカヌーを借りた「カヌーピープル」の元スタッフであるやっさんは、いろいろお得なことがあるらしい。山火事の影響で青空を見れないホワイトホースでは、やっさんも仕事にならずヒマヒマなのだ。

純子さんの帰国が明日なので、レイク・ラバージュへは明日の午後から行くことにした。今夜は、純子さんのお別れパーティだ。

ハイキングから帰ってきた純子さんとスーパーへ向かった。今日のメニューはバーベキュー。オレが肉を焼くわ、とサラリーマンを辞めたあとしばらくホテルの調理場にいたやっさんが言ってくれる。ビーズニーズのテラスでパーティーが始まった。

その夜は、純子さんにやっさん、私たち夫婦だけでなく、レイク・ラバージュへ一緒に行くことになったサッチン、明日からカヤックでユーコン下りを始めるアヤッペも加わった。アヤッペはワーホリでバンクーバーに住んでいた25歳。飄々とした雰囲気なのに意外と芯が強そうな女の子だ。やはり帰国前にユーコンとアラスカを旅しようとホワイトホースを訪れている。

いつまでもユーコンの話を純子さんとしていたかったが、そろそろお開きだ。どうやってお別れしたらいいのかわからなくなってしまった私は、ありがとうを何回か言っただけで、自分の泊まるホステルへ歩き出した。大げさな別れをしてしまうと、もう2度と会えなくなっちゃう気がしたのだ。たとえ再会が5年後になったとしても、純子さんとはさらっと「こんにちは〜」と言って会いたい。そんな駄々っ子みたいな私は「またね、純子さん」とつぶやきながらとぼとぼ歩いている。心の底から、コミュニケーション能力の低い自分が情けなくて仕方がない。そして、ついに見送る立場に逆転してしまった私たち。どれだけホワイトホースにいてんねん、とひとりツッコミしながら暗がりを歩く。

翌朝、バンクーバーへ飛び立つジェット機の音をホステルの窓から聞いた。純子さんが日本へ帰ってしまった音だ。大丈夫だ。きっとまた楽しく会える。

レイク・ラバージュはハイウエイを1時間ほど車で走ったあたりにある。今回泊まる「カヌーピープル」のキャビンはそこからダート(未舗装路)を30分ほど進んだ湖のほとりに立っている。冬場は日本からのツアー客がオーロラ観察で使うような高級キャビンだ。普通に泊まれば1泊100カナダドル以上。おまけに1日40カナダドルするカヤック2艇と、1日25カナダドルかかるカヌーを1艇借りてきているので、合計3泊4日で700カナダドル以上がタダになっている。

食材はホワイトホースの大型スーパー「Canadian Super Store(カナディアン・スーパー・ストア)」でまとめ買いをした。1人26カナダドル。1食あたりで計算すると1カナダドル強、と小躍りしたくなるような安さだ。ホワイトホースのホステルでじっとしているより、はるかにお得で楽しいこのプラン。やっさんサマサマなのだ。

1日目の夜は、やっさんがキムチ鍋を作ってくれた。鶏ガラからダシをとる本格派。食事に関しては相当こだわりがあるようだ。翌朝には残り汁を使ったふわふわの雑炊を出してくれた。

旅行が始まってからというもの、食費を抑えるためにずっとホステルで自炊だった私たち。限られた食材の中で、なんとかバリエーションを持たせて美味しく食事をしようとすると、1日3度の食事だけで相当なパワーがかかってしまう。食べるために1日のほとんどを使っているような気になってしまうほどなのだ。久しぶりに、何もせずしてテーブルに並ぶ食事たちを見て、ホテルのようやわあーと感激しきりの私。早くも帰りたくなくなってきている。

2日目は、タダで借りてきたカヤックとカヌーでレイク・ラバージュの無人島へ行くことにした。天気もそこそこ良くなってきていて、9日前私たちが泣きながら越えたあの湖と同じとはとても思えない。

すっかりうまくなったから速いねーと自画自賛しながら私たちのカヌーも無人島に着いた。ランチはここでホットサンドを作ることになっている。

  「自分ら、かなり遅いなあ。
   それじゃあ12時間かけても、湖越えられへんわー」

やっさんにつっ込まれてしまった。ユーコン下りが始まったころに比べると格段に速く上手になっているのだが、最初があまりにも悪すぎたらしい。

風が強くなってきたので、キャビンへ戻ることにした。サウナがあるので、湖で水浴びしながらお風呂にしようかという話になる。水温は気温と同じ、12、3度というところだろうか。

遠くからギャハハハ……と声が聞こえてきた。湖のほとりに架かる桟橋の上でバトルが始まっているのだ。湖に落ちたら凍えてしまいそうだから、必死で桟橋にへばり付く淳ちゃんとやっさん、そしてサッチン。まるで子供のようなはしゃぎっぷりなのだ。

そのうち淳ちゃんがユーコン川でかなわなかったシュノーケリングを始めた。寒いけど気持ちええでーと淳ちゃんが呼んでいる。私とサッチンも髪を洗うためにそろそろと湖に入った。

後ろからバシャッと水がかかった。やっさんの仕業だ。それを合図に、水かけ合戦が始まる。やっさんもサッチンも、手加減無しのこれまた真剣勝負だ。私は早々に尻尾を巻いて逃げ出した。淳ちゃんは桟橋の上から悠々とカメラを構えている。おもろい写真が撮れたでーとご機嫌だ。

すっかり冷え切った私たちはサウナへ駆け込んだ。狭い部屋で薪ストーブを燃やし続けるという原始的なサウナだが、ずっとシャワー生活だったせいかとても気持ちが良い。体の芯まで暖まっていく。冬のオーロラ観察の時もツアー客に好評だそうだ。髪の毛もすっかり乾いてしまった。ストーブの上に置いてある石に水をかけると、一気に湿度が上がって、暑いのが苦手なやっさんは出て行ってしまった。

その日の夜は、やっさん特製・豚のショウガ焼きだった。もう、手伝おっかー?とも聞かなくなった私たち。すっかりゲスト気分だ。ここはやっさんに任せきった方が旨い飯が食えんねん、と淳ちゃんもしたり顔でサッチンに説いている。

食べ終わった頃、人影が見えた。昨日、ホワイトホースを発ったアヤッペがカヤックでここまで漕いできたのだ。一緒の日にスタートとなった日本人の男性も一緒だ。

キヨと言います、と彼は名乗った。私ややっさんと同じ昭和48年生まれの31歳。なんと京大の大学院まで出ている超エリートさんなのだ。

ホワイトホースにいるころからちょくちょく彼を見かけていた私たち。自信なさげな言動と風貌で私たちは勝手に「のび太君」とあだ名を付けていた。今回、アヤッペがこのキャビンに連れてきてくれたおかげで、のび太君の本名がわかり、知り合いになることができたのだ。

キヨさんは初めての海外旅行なのだという。社会人になって5年ほどで貯まりまくった20日間の有給休暇を一気に使おうと、今回ユーコンにやってきた。初海外、おまけに日本でカヤック体験を1回しただけなのにユーコン川下り14日間、という強気なプランニングをするキヨさん。その風貌からは想像しにくいのだが、どうやらこの人もタダものではないらしい。

アヤッペとキヨさんもサウナに入ることにした。淳ちゃんは水かけ合戦を仕掛けたくてウズウズしている。

サウナの準備ができたころ、戦争が始まった。キヨさんも負けていない。しょーもない遊びなのに、みんな何だか異常に真剣なのだ。アヤッペは桟橋の下にまで逃げ込んでいる。

冷え切った3人の体が十分に暖まった後、6人全員がカヤックとカヌーにそれぞれ乗り込んで沖へ出た。岸から見えるカモメ島の手前まで漕いで、あとはゆっくり夕日を眺めるのだ。日没は23時過ぎ。ユーコンの1日は本当に長い。

モーターボートがゆっくり前を通り過ぎていった。ボートの作る波がしばらくしてやってくる。日が落ちて暗くなっても、皆なかなか戻ろうとしなかった。

帰りもやっぱりバトルが始まった。淳ちゃん&サッチンチームのカヌーが猛烈なスピードで岸へ戻っていく。淳ちゃんチームの追い上げに気づいたやっさん&あやっぺチームのカヌーも引き離そうと必死だ。カヤックにそれぞれひとりで乗っている私とキヨさんは、ぼちぼち行きましょかーとあとから付いていくしかない。結局、振り切ったやっさん&あやっぺチームの勝利となった。やっさんは達成感いっぱいの顔をしている。ずいぶん、負けず嫌いらしい。

  「石川のおっちゃん、笑わへんかったらオレ気づかんかったのにー」

どうやら淳ちゃんがウヒャヒャヒャーと大声で笑いながら追い抜こうとしていたのでやっさんにバレてしまったらしい。淳ちゃんも悔しそうだ。

次の日の朝は嵐のような風が吹いていた。雨も激しく降っている。

階下では淳ちゃんが持ってきたクラシック音楽がポロポロポローと流れている。やっさんがテーブルにナイフとフォークを並べる音もカチャカチャ聞こえてくる。このキャビン、何だかホンマのホテルみたいになってきている。

焼きたてのパンケーキとフレンチトーストが次々と運ばれてくる。フワフワしていてほんのり甘くて幸せな気分だ。ぺろりと食べ終えるとキヨさんが不安そうな顔をして外を見ている。雨だけでなく風がとても強いので、レイク・ラバージュに波が立っているのだ。出発はしばらく見送った方が良さそうだ。

だらだらっと昼過ぎまで過ごし、今日もサウナに入ろうぜということになった。当然水かけ戦争付きだ。キヨさんも張り切っている。30歳を過ぎた大人が奇声をあげながら水かけする姿はちょっとヘンテコな光景だ。それでも、中学生くらいに戻ったつもりで何でも楽しんじゃうのも悪くない。ますます勢いづいていく淳ちゃんも、ホント楽しそうだ。

サウナの後は、ジャンベ(バリ島の太鼓)好きの淳ちゃんとアヤッペが仕掛けた、セッションが始まった。みなそれぞれ、音がしそうなものを持ってきて叩いている。そのうちベースのリズムができてきて、だんだん6人全員の音がぴったり合ってくる。これまた何てことはない遊びなんだが、なーんにもない静かな湖畔にいると、普段考えもつかないようなことで楽しめてしまうのだから不思議なものだ。淳ちゃんはリズムに合わせて歌い始めている。サッチンは手持ちのレコーダーで録音を始めた。6人のリズムはどんどん加速して、ひとつのメロディーを作りあげ、そして淳ちゃんの合図で終わりを迎えた。いやー、ええ感じやったなーと淳ちゃんは感激している。私は何だかちょっと照れくさい気持ちになりながらも、充実感でいっぱいだった。自分をオープンにしないとこういう遊びは難しいのだ、きっと。

夕方になっても風が止まないので、キヨさんとアヤッペはキャビンにもう1泊していくことにした。今日の夕食はミンチを使ったポーキュパイン(ハリネズミという意味)だ。人数が2人増えたので、ご飯を加えて量を増やすのだという。ミートボールからプチプチ突き出たご飯がハリネズミのようなので、この名前が付いたらしい。

まだまだお腹がすいているからご飯を炊こうかという話になる。トマトソースもたっぷり余っているから、からめて食べたら美味しそうだ。

  「僕の玄米をぜひ食べてください!」

キヨさんがそう言ってくれた。玄米党のキヨさんは日本から4升もの玄米を持ってきていたのだ。

炊きあがった玄米はとっても固かった。

  「かったー。何やこれ」

やっさんが容赦なくダメ出しをする。

  「じゃあバターライスにしましょう!」

大して気にする風でもなく、キヨさんはバターライスを作り出した。

  「まずっ。何やこれ」

できあがったバターライスもダメ出しだ。味見してみるとなるほど、ただのバター飯だ。べっとりしていて美味しいとは言い難い。

結局、やっさんがそこから手を加えて本物のバターライスを作ってくれた。誰かの後を手直しするのが一番大変やねん、とブツブツ言いながら手際よく炒めていく。

  「これは本当においしいですねえ。こんなの初めて食べました!」

キヨさんは目をキラキラさせて美味しそうにできあがったバターライスをほおばっている。やっさんにコテンパンに言われたのに、落ち込むどころか感激している。ずいぶん、素直な人だ。

夕食の後は、やっさんに薪割りを教えてもらったり、カメラの使い方を教えてもらったりして遅くまで過ごした。今なら、本当に知りたいことが何なのか自分でわかるし、手に入れた知識はすぐに自分の人生に使えそうだ。そして私たちが欲しいと思っている人生の知恵を、やっさんはたくさん持っているような気がしていた。

4日目の朝は快晴だった。風も収まっている。キヨさんとアヤッペは出発だ。

もし、山火事が収まっていればキヨさんはドーソンシティまで行ってしまうので、もう会えないかもしれない。アヤッペは直前にカーマックスまでの7日間に変更しているので、ホワイトホースに帰ってくればまた会えるだろう。

楽しみ方を覚えました!なーんていかにも秀才くんなコメントを残してキヨさんはカヤックに乗り込んだ。遊んでばかりな私たちも、そう言われると悪い気はしない。

キヨさんは水の中で長靴を脱いでぷかぷか浮かぶカヤックに乗り込む。まるでそこが玄関のようだ。あっという間に浮力がついて長靴が倒れ、乾いたばかりの長靴が水浸しになっている。あかんやーん!しっかりせなー、なんて皆につっ込まれながらキヨさんとあやっぺは旅立っていった。

残った私たち夫婦と、やっさん、サッチンの4人は後片付けを始める。ホワイトホースに戻って「カヌーピープル」の営業時間内にカヌーやカヤックを返さないといけないのだ。

部屋の掃除は4人でざざっと済ませ、あっという間に終わった。残るはトイレットペーパーの後始末だ。

キャビンに備えられたトイレはアウトハウスと呼ばれる屋外ボットン便所だ。汲み取りはほとんど不可能なので、トイレットペーパー類は下に落とさずゴミ箱に貯めるようになっている。そしてもちろん、使用済みの紙類は燃やして帰らないければいけない。

6人分のトイレットペーパーだ。しかも、紙は燃えそうでなかなか燃えてくれない。あとで燃やされる、と知っている私なんかは拭いた箇所を見られないようにガッチリ包んでいたりするので焦げるだけで終わっている。

女性が使ったあとのトイレットペーパーを燃やすことは仕事のうちだったやっさんは何喰わぬ顔で燃やしている。あかんねん!固めたらー、とか言いながらせっかく包んで隠したはずの紙を棒でほぐし始めている。ひえーやめてくれー!と思うが、火の中なのでどうすることもできない。ユーコン下りの時はその場で各自燃やすか、まとめて夜の焚き火に放り込んでいたものだ。その時は淳ちゃんにも純子さんにも席を外してもらっていた。自分が使った後のトイレットペーパーを見られるなんて、かなり恥ずかしいじゃないか!

  「うわっ何やこれ。ウンコべったり付いてるやーん」

ゴミ箱から火へ移す前にトイレットペーパーがふわっとなるようにほぐし始めていた淳ちゃんが叫ぶ。誰かが使った後であることは間違いがない。そこにいた4人は全員、自分のじゃないと言う。当たり前だ。

結局そこに居なかったキヨさんとアヤッペのせいにした。というかキヨさんのせいにしてしまった。みんなやることが子供みたいだ。ウンコひとつでこの騒ぎ。

何とか全部燃やし終え、キャビンを後にした。

レイク・ラバージュの4日間が終わった。電気も水道もガスも無い場所だった。

それでも、仲間が増えた。心を込めて作ってもらったおいしい食事をみんなで食べ、夕日を見て、湖を漕ぐ。遅くまで話し込んで、ぐっすり寝たあとは、また疲れるまで遊ぶ。まるで合宿みたいだ。

やっさんと別れて、サッチンと3人でホステルで夕食を作っていた。

  「ジュン、キミに電話だよ」

ホステルのスタッフ、ジェイミーが電話を持ってきてくれた。

やっさんだった。今からファイヤーウィード(ヤナギラン)の花畑に行くから 15分後に迎えに行く、と言っていたらしい。できあがったラーメンを慌てて食べる私たち。そうして10分後に登場したやっさん。日が暮れるから早く行くで、と急かされる。花畑はレイク・ラバージュよりさらに遠い。大阪で言うと、夜の8時から近江八幡へ遊びに行こーって誘ってるようなもの、らしい。

フォックス・レイクでとろけるような夕日が落ちた。
12時近い。大きな魚がバシャバシャ跳ねている。

3日後にはサッチンがフェアバンクスへ旅立ってしまう。






[今回使った足と宿]

▼カーマックスからホワイトホースまでのバス
DAWSON CITY TAXI AND COURIER
(867)393-3334 または (867)993-6688

▼ハイド・オン・ジャッカル・ゲストハウス
Hide On Jackell Guesthouse
http://www.hide-on-jeckell.com


▼ビーズ・ニーズ・バックパッカーズ
BeezKneezBakpakers
http://www.bzkneez.com



[今回訪れたところ]

▼カヌーピープル
KANOE PEOPLE
http://www.kanoepeople.com

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー キャンプ
手前がスネ肉と豆のスープ。
豆はブラックアイドピーと言うそう。アツアツのスープに冷たいご飯をいれるのがおいしい食べ方なんだと教えてくれました。
淳ちゃんはおかわり3杯!

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
純子さんのお別れパーティ。
左から、やっさん、淳ちゃん、私、あやっぺ(緑色の帽子)、純子さん、サッチン(青いパーカー)です。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
2日目、レイク・ラバージュへ遊びに行った時のもの。淳ちゃんは2度目になります。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
晴れた時のレイク・ラバージュ。氷河を源に
する川特有の色をしています。美しい!

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
お昼は無人島でホットサンド。
やっさんのツーバーナーが大活躍です。中にはローストビーフにレタス、トマト、チーズ!チーズ嫌いの淳ちゃんはチーズ抜きです。
溶けてたら大好物らしいんですけどね。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
湖にかかる桟橋で始まったバトル。グラグラに揺れています。翌日、バキッと大きな音を上げて下にあるドラム缶が外れてしまいました。
遊びすぎ!

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
シュノーケルをつけて飛び込もうとする
淳ちゃん。といっても水温が12、3度なので
かなり厳しい状況です。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
水かけ合戦勃発。容赦なくホンキで攻めてくるやっさん。飛んでくる水の量が半端じゃなく重いので速攻退散する私。実はやっさん、水泳部出身だったとか。なるほど。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
すっかり冷え切った後のサウナ。快適です。

 
レイク・ラバージュ ユーコン キャビン スプルース トウヒ アスペン ヤマナラシ
2泊目から泊まったメインキャビン。
スプルース(トウヒ)とアスペン(ヤマナラシ)に囲まれた静かなところです。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
日暮れにあわせて漕ぎ始めました。
4つのフネをあわせてふわふわ湖に浮かんでいます。これは女子チーム側。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
何となく始まったセッション。私はアイスの空き箱を叩いています。

レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
調子が乗ってきて歌い出した淳ちゃん。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
3日目のディナー、ポーキュパイン。
物持ちの良いサッチンは大きな荷物(100リッターのザックにカート付きバッグ!)の他に食料バッグを持っていて、そこからは魔法のように日本の食材が次々と出てきました。
今日は薬味にネギとショウガをプラス。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
薪割りを教えてもらっているところ。
斧は強力なので必ず足を大きく開かないといけないんだそうです。テレビで見るみたいにパッカーンと一気にはなかなか割れなくて、
途中で刃が止まってしまうことがほとんどです。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
いよいよアヤッペとキヨさんが出発します。
昨日までの嵐のような天気が嘘のよう。
湖を抜ける風が心地良いです。

レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
最後にみんなで撮った記念写真。
真ん中がキヨさん。ホンマに良い写真です。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
ファイヤーウィード(ヤナギラン)の花畑に到着しました。山火事のあと、一番に咲き始めるのでこの名前が付いています。焼け残ったスプルース(トウヒ)の枝との対比がこの世とは思えないような景色を作っています。

 
レイク・ラバージュ ユーコン 川 カヌー カヤック
仕事モードに入ったやっさんの横でマネをする淳ちゃん。大人と子供みたいです。それでも、教えてもらったばかりの撮影テクニックを駆使する淳ちゃん。
本当に写真が上手くなっています。




▼PART11 2004.08.12 ジュノー・青のトンネル 〜グレイシャーベイ国立公園[1]
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