World Odyssey 地球一周旅行

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旅の日記
見たもの、乗ったもの、食べたもの…たくさんの驚きを写真と一緒にお伝えします。



▼PART8 2004.07.17 涙のレイク・ラバージュ
>>ユーコンリバー300キロ[3]



淳ちゃんの声で目が覚めた。2日目の朝だ。
肩から先がずきんずきんと痛くて、夜中何度も目が覚めた。寝た気が全くしない。淳ちゃんは元気だ。さっそく朝食の準備、と火をおこしている。

昨日、クタクタに疲れてキャンプ場へたどり着いた私たち。21時をまわっていた。そして何とかテントを張り、夕食を取って眠りについた。夕食はラーメンに野菜を突っ込んだものと白米。グルメな川旅〜なんて浮かれていたのはいつだっただろう。

ユーコン準州では私たちが到着する前から例年にない山火事に見舞われていて、キャンプ場での焚き火は全面的に禁止されていた。やっさんにも「今のところ禁止ですよ」と言われていたのだが、直火で焼いて食べるサーモンが旨い話をしておいてキャンプファイヤー禁止と私たちに言うのはきっと建前だろう、とタカをくくっていた。だから、まわりを見て安全かな(この判断の基準が甘くて根拠のないものだった)、と思う場所では火をたいても良い、と勝手に判断して火をおこしていたのだ。

後で知ったところによると、焚き火が見つかると1000カナダドルの罰金らしい。

純子さんは何も言わなかったが、旅の間中私たちの火を使うことはなかった。きっと苦々しい思いで見ていただろう。まさに、自己責任。今、私たちは猛烈に反省しています。ごめんなさい。

と、能天気に火をおこす淳ちゃん。彼は焚き火が大好きなのだ。しかも今回は生まれて初めてする「ホンマの焚き火」。誰かが火をおこした跡を利用して、大きな石でかまどを組む。薪を周囲から集めてきてどんどん燃やす。炭をおこすバーベキューとは全然違うのだ。

話をしながらゆっくり朝食を取っていたら、もう8時だ。もともと、やっさんの指令にあった「5時起き」はできていない。純子さんはやっさんの「1日でレイク・ラバージュを越えろ」指令に異議を唱えている。どう考えても途中で1泊する距離だという。

どうやら、やっさん指令はかなり頑張らないと達成できなさそうだ。

ま、行けるところまで行きましょか、ということで漕ぎ始めた。

いよいよ湖にはいるとすでに波がある。遠くに白波が立ったら漕ぐのをやめて岸で待機してください、とやっさんからは言われているが、それほどでも無いので漕ぎ進めることにする。

昨日の筋肉痛が上半身の至る所に残っている。しかも足まで筋肉痛だ。いったい私は体のどこを使って漕いでいるのだろう。淳ちゃんは、腕の上部が少し張る程度だと言っている。それが普通なのだろう。純子さんも同じ場所が痛いと言っているのだから。

カヌーはシングルパドルというパドルを使って進む。前後2人の力を均衡に保たないと真っ直ぐ進まない乗り物だ。もちろん、前に座る私の力がとても弱いので、淳ちゃんは後ろで漕ぎつつ、舵を取り、力の調整をしないといけない。真っ直ぐ進めるようになるまで、どんな初心者でもだいたい1日はかかるという。それまでは蛇行に蛇行を繰り返し、ひどい人だと倍以上の距離を漕ぐ結果になってしまうそうだ。

昨日よりはうまくなったねぇと自画自賛しながら湖を進む。ちょっとは真っ直ぐ進んでいる。それでも流れが無いからまったく前に進まない。私たちは湖の右側を常に進むように、と言われているのだが、右手に見える景色が全然変わらないのだ。横で人が併走しても追い越されるんじゃないかと思うほど遅い。

途中トイレ休憩をした。淳ちゃんは純子さんのカヤックに乗せてもらう約束をしていてここで交代となる。カヌーは、私が前で純子さんが後ろを漕ぐことになった。

安定感がある。ぐんぐん進む。さすがだなあーと感心しながら、私もサボってちゃいけないなと一生懸命漕ぎ続ける。

何だか強烈な眠気が襲ってきた。一定のリズムで揺れるフネと寝不足のせいだ。それでも何とか漕いでいたつもりだった。「ちーちゃん、休憩しよか」純子さんがまた声をかけてくれた。どうやら、フネの上でフネを漕いでいたらしい。あ、サムイですね、すいません。

止まれそうな岸につけたとたん、私は倒れ込むように寝てしまった。後のことはまったく覚えていない。どうやら15分ほど、爆睡してしまったようだ。イビキもかいていたという。恥ずかしい。

慣れないカヌー漕ぎはとても疲れる。淳ちゃんは「何かお腹が減るねん」と言ってポテチをパリパリパリパリ、漕ぎながらいつも食べていた。私は眠気に襲われた。

そのまま、淳ちゃんと純子さんも隣で昼寝を始めてしまった。そろそろやっさん指令の未達成が見えてきている。川地図で現在地を確認してみるが、山火事の煙のせいで遠くを見渡すことができない。ま、だいたいこれくらいは進んでいるだろうと目星をつけて今日のキャンプ地を純子さんと決めた。湖を3/4ほど進んだ地点にあるグッドキャンプだ。

しばらく漕ぐと左手に見てはいけないものが見えた気がした。とっくに越えたはずの大きな無人島が現れたのだ。まだここなのかー。

がっくりきてしまった私はとたんにパワーダウンしてしまい、漕げなくなってしまった。あの島がやっと見えてきたということは、湖を1/4強しか進んでいないということになる。今までなんと都合の良い解釈をしていたのだろう。

泣きそうに拗ね始めた私に純子さんは信じられない提案をしてくれた。カヤックをカヌーの後ろに繋いで、純子さんがカヌーの前を漕ぐ。私は中心に置いてあるクーラーボックスの上で座っていて良いと言ってくれたのだ。カヌー3人漕ぎだ。

天使のような純子さんに甘え倒し、その日の目標に設定し直したキャンプ地へ着いたのは、やっぱり21時をまわったころだった。目一杯漕いだのに、全然進んでいない。おいおいやっさん、勘弁してくれよと思う。淳ちゃんは、2ー3日で別行動をすると言っていた純子さんに、頼むからもう少し一緒にいて、と頼んでいる。へなちょこな私のせいでみんな大迷惑だ。

食事をする気力も無かったが、無理矢理サーモンを焼いて食べた。けっこう美味しくて力が出た気がした。純子さんも食べてくれたのでそれも嬉しかった。

3日目の朝、目が覚めると、どうしようもなく疲れている自分がいた。普通、朝起きたら少しは元気が回復しているものだ。それなのに、ただ疲れているのだ。美味しいものをたくさん食べるとか、昼寝するとか、甘いものを食べるとか……せめて気持ちだけでも元気になれそうなことすらまったく思いつかない。疲れすぎて途方に暮れる、という経験は初めてのことだ。

そんな悲惨な顔をしてテントからのっそり出てきた私を見て、純子さんは淳ちゃんにまたありがたい提案をしてくれた。「あまり急ぎすぎても楽しくないから、自分たちのペースで進んだ方がいいよ。それでもこの湖越えは、今日できる限り一緒に漕ぐから今日前半だけ頑張ってみたら?」そう、また3人漕ぎをしてくれるというのだ。自分だって相当疲れているはずのこの状況でなぜこんなことが言えるのだろう……人ごとのように驚きながら、プライドも何もあったもんじゃない私は、またまた純子さんのプランに甘えさせてもらうことにした。本当に情けない。

淳ちゃんの作ってくれた朝ご飯のスープをお腹に入れて出発することにした。今日こそレイク・ラバージュを越えてやる。目指すは湖出口にあるエクセレントキャンプ(キャンプするには最高の場所)、やっさんが1日で行けと言っていたあのキャンプ場だ。

もう、カヌーの上でぐびっと一杯、とか、のんびり昼寝をして……なんて夢みたいな話は忘れかけている。とにかくこの湖を越えないことには話にならない。

少し、前向きな思考になってきている自分に気が付いた。否定的な思考を加速する筋肉痛の痛みだけとってしまおう、と飲んだ鎮痛薬が効いてきたからだろうか。

それに純子さんが前で漕いでくれているおかげで、体の使い方や漕ぐスピードをすぐマネすることができる。覚えるなら今日が最後だ。

3日目になって体も少し慣れてきたのかもしれない。
お昼を一緒に取った後「もう大丈夫。エクセレントキャンプで待ってるよ」と言って純子さんはひとりカヤックで先を行った。「純子さんの帰国までにはホワイトホースに戻るからねー」まだまだ自信が付いていない私たちである。

純子さんと離れてからも、視界にはいつも彼女の姿があった。たまに岬のような崖の陰に隠れることがあっても常に同じ間隔を保っているようだった。

夕方近くなると波がぐんぐん高くなってきた。ここはただの湖だ。それなのに日本海かと思うような荒波と断崖絶壁が続いている(福井出身の純子さんはあとで「蘇洞門めぐり」のようだ、と言っていた)。沖(?)の方でやっさんが目安にしろと言った白波が立ち始めるが、今右側には寄せられるような岸辺はまったくない。

「とにかく波に直角に舵を取って!淳ちゃん!」

なにやら深刻だが、ホンマに真剣だ。横波をかぶったら速攻沈しそうなのだ。避難できそうな岸もしばらく無い。風邪を引くどころか低体温症になってしまうおそれもあるのだ。何よりこの波でカヌーを回収できる自信がない。

「よっしゃー!まかせとけー!」

こういう状況になるといつも以上に張り切る淳ちゃん。頼もしい人だ。それでもまだまだテクニック不足の私たちは、それこそ大海に放り出された木の葉のように、波の間で翻弄されていた。そういうイメージだったのだ。

ま、実際は1メートルにも満たない波だったが、私たちは何とかクリアして穏やかな海域(?)に入った。純子さんとの距離は変わらないようだ。

しばらく漕ぎ続けると純子さんの姿が見えなくなった。そしていつまでたっても出てこない。ちょっとした崖に隠れているんじゃなくて、きっと大きく右に入り組んだ場所へ入ったんだ。

そんな場所はひとつしかない。エクセレントキャンプだ。

手を振りながら純子さんが待ってくれている。
ええ歳した大人な私だが、感極まって泣きそうになってしまった。

そういう今でも、あの瞬間を思い出して胸がグッとなっている。
ありがとう、純子さん。





▼カヌーツーリング・データ

6/29 ホワイトホース〜レイク・ラバージュ手前のグッドキャンプ
   走行距離:約29.5キロ 総走行距離:約29.5キロ

6/30 レイク・ラバージュ手前のグッドキャンプ〜砂利地のキャンプ
   走行距離:約28キロ  総走行距離:約54.5キロ

7/01 砂利地のキャンプ場〜湖最後のエクセレントキャンプ
   走行距離:約30キロ  総走行距離:約84.5キロ



[今回使った足と宿]

▼カヌーで進んで野宿なので今回は無し。



[今回訪れたところ]

▼カヌーピープル
KANOE PEOPLE
http://www.kanoepeople.com

ユーコン 川下り カヌー 荷物
毎日カヌーに積んでいる荷物を全て降ろして翌朝積み直します。夜の間に雨が降るといけないので空になったカヌーは朝までひっくり返しておきます。これは2日目の朝出発する前です。

 
ユーコン 川下り カヌー カヤック シーカヤック リバーカヤック
純子さんのカヤックに乗せてもらっているところ。腰がとても痛くなるそうです。ユーコン川下りでは、このレイク・ラバージュ越えがあるのでリバーカヤックでなくシーカヤックを使うそうです。

 
ユーコン 川下り カヌー カヤック
純子さん初登場。淳ちゃんがカヤックを漕いでいるので私たちのカヌーの舵取りをしてくれています。純子さんは背筋がピンと伸びているのに、私は見るからにくたびれていて格好悪いですね。

 
ユーコン 川下り カヌー カヤック 川地図
トイレ休憩中です。
誰かが残したベンチがありました。川地図を見て現在地を確認しているところです。

 
ユーコン 川下り カヌー カヤック 休憩
強烈な睡魔に襲われて眠ってしまったところ。左手の脱力感が物語っています。

 
ユーコン 川下り カヌー カヤック 3人乗り
純子さんがカヌーに乗ってくれて3人で進んでいるところ。後ろに繋がれたカヤックが見えます。私は真ん中のクーラーボックスの上に座っているのでほとんど漕いでいません。

 
ユーコン 川下り カヌー カヤック キャンプ
レイク・ラバージュ越えを断念してテントを張りました。すぐ捨てるつもりだった2980円のテントを予想外に使い倒しているので、ブルーシートでカバーして雨に備えています。




▼PART9 2004.07.17 水の音と鳥の声、それだけ 〜ユーコンリバー300キロ[4]
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