World Odyssey 地球一周旅行

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旅の日記
見たもの、乗ったもの、食べたもの…たくさんの驚きを写真と一緒にお伝えします。



▼PART7 2004.07.17 漕ぎ始めて気づいたたくさんのこと
>>ユーコンリバー300キロ[2]



いよいよ、出発の日がきた。やっさんとは9時にカヌーピープルで待ち合わせている。

旅の友もひとり増えている。純子さんだ。彼女とは同じホステルで知り合った。実は彼女もやっさんの友達だ。というか、純子さんもやっさんと同様、すでにカナディアンになりつつある人なのだ。数年前にワーホリでホワイトホースに滞在し、それからというもの、ユーコンの魅力にどっぷり漬かってしまって確か今回で4回目の滞在。入国の際、係官に目をつけられて2ヶ月しかビザをもらえなかったアンラッキーな人でもある。帰国日は7月8日。もともと予定していなかったユーコン川下りだが、今回の滞在で何回かカヤックを練習したらしく、私たちが行くのなら行こうかなという気になったらしい。やっさんはカヌーで一緒に行きたかったようだが、純子さんの希望はカヤック。とするとやっさんもカヤックで行かないといけないので、やっさんは渋々お留守番となる。カヌーは2人で漕がないと進まないし、1人乗りのカヤックだと積める荷物が制限されて、けっこうひもじい食生活になってしまう。グルメなやっさんは、カヌーがいいのだ。

これまでルートは違うが、2回ユーコン川下りを経験している純子さんが一緒というのは心強い。純子さんは、最初の2〜3日だけ一緒にいて後はそれぞれのペースで進もうと言う。私たちもそれでOKだと返事をした。

実はこの時期、私はちょっとした問題を抱えていた。デナリ国立公園で知り合ってフェアバンクス・ジェッタのキャビンまで一緒に過ごしたマキちゃんだが、フェアバンクスの途中から私は彼女と上手に付き合えなくなっていたのだ。それは完全に私のミスだ。次から次へと起こる旅の出来事に浮かれていたのかもしれない。普段なら、仲良くなるまで相応のステップを踏むものなのだが、私はなぜかその時、気持ちをフルオープンにしてしまっていたのだ。開けられた扉に人が入ってこないわけがない。知り合って数日の彼女と、ジェッタのキャビンで一緒に生活するうちにどうしても我慢できない部分を自分で勝手に見つけて、挙げ句私の方から勝手に殻を閉じてしまったのだ。

そんな失敗があったので、新しく知り合う人に対して少し構えてしまう部分があった。だから、純子さんと旅を共にすることになった時、自分がまた同じ失敗をしてしまわないかとても不安になったのだ。ホステルでもキャンプでも、ベーシックな生活を共有するという点では、キャビン生活と同じ。私は他人と上手に共同生活が送れるのだろうか……。

そんな私の不安をよそに、淳ちゃんはいそいそと準備を進めている。鼻歌なんか歌っちゃってご機嫌そのものだ。

やっさんに荷物の積み方を教わった後は、パドル(櫂)の使い方を教わる。何てことはない。基本的に水を掻くだけなのだ。真っ直ぐ進むための舵のきかせ方はやってみて覚えるしかない。目の前の川で練習すると言ったってこの流れだ。帰ってこれなくなってしまうので、ちょっと入り組んだところで軽く練習する程度しかできなかった。ぶっつけ本番である。

次は、川地図を使ったルート説明だ。パラパラとめくり「今日はここへ泊まってください」とキャンプ場を指すやっさん。ページを2枚めくった後に現れる大きな中州だ。

「それから」やっさんが一呼吸おく。でも相変わらず淡々とした口調だ。

「明日は死ぬ気で頑張ってください。しんどいのは明日だけですから。湖を越えてもらいます。これ、50キロあります。流れがないので漕ぐしかないですね。朝5時に起きて、6時にキャンプ場を出て漕いでください。お昼は、そうですね、フネの上で食べられるように朝のうちにサンドイッチを作っておいてください。ま、夕方6時には湖の出口のエクセレントキャンプ(キャンプするには最高の場所)に着くと思いますよ。午後になると風が出てきて波が立ち始めるんで、できるだけ朝早めに漕ぎまくってくださいね」

と、ここまで一気に話し終えたやっさん。
おいおい。50キロ?流れのない湖を50キロも漕ぐの?私たち2人の手動で??イマイチ実感が湧いてこない私たちである。「大丈夫ですよ、朝早く漕ぎ始めたら着きますから。次の日からは天国です」とやっさんは、もう次の日以降の説明をしようとページをめくっている。

何だかアホな子のようにふんふんとやっさんが話す夢のような話を聞くだけ聞いた私たち。もう13時だしそろそろお昼でも食べようか、なーんてのんびりしたことを話していると、またやっさんが近づいてくる。「そろそろ出ないと、今日のキャンプ地に着かないですから出てくださいね」ひえー。けっこう慌ただしいじゃん!

出発はあっけなかった。まずは上流に向かって漕いで途中で向きを変える。そうしないとフネの先端を流れにとられてしまうからだ。それすらも初めてな私たちは、もちろんぶっつけ本番で、やっさんに指示してもらいながらやってみる。よし!流れに乗った!これがスタートだ。すでに遠くなっている岸を見るとやっさんが不敵な笑いを浮かべている。ん??ハメられたか?

川に出るとまずその流れの速さにビビってしまう。川の水がきれいなので川底の石がはっきり見える。その上をびゅんびゅん通り過ぎていくから、自分が空を飛んでいるような感覚に陥ってしまうのだ。カヌーもとても不安定に思える。後ろで大興奮の淳ちゃんの顔が見たいのだが、振り向くと沈しそうでとても怖い。

しばらくすると流れが緩やかになった。漕がないと進まないな、とパドルを水に浸け漕いでみることにする。

2漕ぎか、3漕ぎして気づいた。
これは、しんどい。メチャメチャしんどい。

私たちの人力だけで7日間300キロ、漕げるわけがない。絶対、無理だ。有り得へん。どうしよ。マジでやばい。

思いつくだけのあらゆる否定的なワードが頭を駆けめぐっていた。もちろん淳ちゃんはそんな私のビビリなんか気づいてもいない。後ろの方から「ええなー。最高やわあー。」てな声が聞こえてくる。


ユーコン川をカヌーやカヤックで下るというのは、カヌーをする人間だけに留まらず「ロマンある旅」として憧れの存在なんじゃないかと思う。そういう私もユーコン、という響きだけで、何だか遠くを見てしまいそうな気になっていたものだ。

ユーコン川はカナダBC州とユーコン準州に源を発する、全長3190キロ、流域面積85万4000平方メートルというとてつもない大きな川だ。アラスカに入ると広大な三角州地帯を経てベーリング海へと注ぎ込む。私たちが下るのは源流域から約50キロほど下った地点から約300キロ。いわゆるユーコン上流部にあたる。

ユーコン川下りといっても色々な区間がある。ホワイトホースからゴールドラッシュ時に栄えたドーソンシティまで、とかドーソンシティからアメリカ国境を越えてアラスカに入りサークルという街まで行く、とか期間も楽しめる川の特徴も様々である。ホワイトホースから私たちが7日間かけて目指すカーマックスまでは途中、レイク・ラバージュという大きな湖を越えさえすれば川幅も広すぎず変化に富んだ川旅が楽しめるといわれている区間。注ぎ込む支流も少なく、比較的水もきれいだ。

と、こんなユーコン川のうんちくも川旅を終えてから仕入れた情報だ。漕いでみて初めてその大変さに気づきつつある私たちは、まだレイク・ラバージュがどれほど大きくて、どれほど進まない湖なのか知るよしもなかったのである。パドルを漕ぐとググッとかかってくる水圧を上半身全部に受けながら、これは大変なことになったぞ……と早くも後悔が始まっていた。

実は、ユーコン川に一度漕ぎ出してしまったら、あとはカーマックスまで漕ぐしかない。周囲に車が入れる道は無く、川をさかのぼるなんてことも当然不可能なので「やっぱりやーめた!」ができないのである。カップルや夫婦、特に新婚旅行でユーコン川下りをすると別れる確率が非常に高い、とはまことしやかにささやかれているジンクスだ。そりゃそうだ。一般的に力の少ない女性は、舵をとる必要がある後部座席でなくひたすら漕ぐだけの前方座席に座ることが多い。朝から晩まで漕ぐだけ。しかも相手の顔も見えやしない。おまけに夜は蚊が飛びかうちょっと開けた場所で野宿だ。お風呂はもちろんトイレだってない、とは野田氏の弁から拝借。納得だ。

そんなことだって何も聞かずに出発した私たち。やっさんは「周囲には人っ気が全くないからいいですよ」と「8日たって帰ってこなかったら探しに行きます」と言っただけだ。私たちは、カヌーの上で読む本を貸して、と借りた野田氏のサイン入り本を川旅4日目くらいに読んで初めて、別れる夫婦が多いことを知ったのである。

だから、もう漕ぐしかないのだ。前に進むしかない。それも自分たちの力だけで。しかも離婚している場合じゃないのだ。旅はまだ始まったばかりなんだし。

後ろから一艇のカヤックが近づいてくる。少し遅れて出発した純子さんだ。

「こんにちは〜」
淳ちゃんが、最近マイブームな四日市訛りの挨拶で声をかける。
「今日はどこから来はったんですか〜?」

「ホワイトホースからなんですぅ、お二人は今日はどこまで行くんですかぁ?」

返してくる純子さん。淳ちゃんの仕掛けた「偶然出会った日本人同士の会話」ゲームに、さらっとのってくる。なかなかおもろい人だ。

「おー、追いついてきたなー純子さん。さすがやなー。」淳ちゃんはさっそく、素に戻って話を続けている。お昼を食べ損ねたので、買いためておいた朝食用ベーグルをかじりながらだ。

とにかく今日は目標のグッドキャンプ(キャンプをするに適した場所)まで頑張って漕ぐことにした。一緒に行動すると言ってもフネが別なので、短距離で目標を話し合っておかないとはぐれてしまう。

近づいて話したり、また離れて進んだり……としながら漕ぎ進むと小さな中州が現れてきた。トイレ休憩しようか、と純子さんが声を掛けてくれる。そうだ、今日から7日間トイレも自分で作らないといけないんだった。

野外での生活には普段どおりのやり方は持ち込めない。代表的な考え方として「No Trace(自然に跡を残さない)」というものがあげられると思う。これについて詳しくはまた旅の情報コーナーで詳しく述べようと思うが、基本的には野生地に人間のインパクト(影響)を残さない技術、と考えて良いと思う。燃えないゴミは捨てない、くらいに思っている人も多いんじゃないだろうか。私はそうだった。

典型的なのが、トイレットペーパーだ。水に溶けるんだし、何より紙なんだから自然に帰るだろうと思っていると実は違う。この異常に乾燥しているユーコンでは、人間の排泄物は10日ほどで分解されるそうだが、トイレットペーパーは1年も2年も自然に帰らないそうだ。トイレットペーパーはその場で燃やすか、持ち帰ってどこかでまとめて燃やす。必ず守りたいルールだ。トイレットペーパーをその場に残していくと、自然にインパクトを与えるだけでなく、次に訪れた人に不快感を与えることにもなる。私たちも何度かカピカピになったトイレットペーパーを発見してしまい、いやな思いをしたものだ。

やっさんが出発前に教えてくれたとおりに、純子さんはトイレの仕方を教えてくれた。山火事が多くキャンプファイヤーが禁止されていることもあって、トイレットペーパーはビニール袋に入れて持ち帰ることにした。蚊除けローションを塗っていないむき出しのお尻には3ヶ所も蚊の刺し跡。もう泣きたくなるような状況である。

キャンプ場の様子調べとくねー、と純子さんは先に行ってしまった。

地図の見方もまだまだドシロウトな私たちは、キャンプ場のある大きな中州を逆回り3/4周してから間違ったことに気づいた。すでに無言の私たち。元の位置に戻り、残りの1/4周弱を進んでやっとキャンプ場にたどり着いた(ほとんど一周したことになるのだ)。到着の遅い私たちを心配して、純子さんは蚊の多い岸辺でずっと待っていてくれた。

明日はレイク・ラバージュ越えだ。




▼カヌーツーリング・データ

6/29 ホワイトホース〜レイク・ラバージュ手前のグッドキャンプ
   走行距離:約29.5キロ 総走行距離:約29.5キロ



[今回使った足と宿]

▼カヌーで進んで野宿なので今回は無し。



[今回訪れたところ]

▼カヌーピープル
KANOE PEOPLE
http://www.kanoepeople.com

ユーコン ホワイトホース セカンドアベニュー カヌーピープル
セカンドアベニューにたつカヌーピープルの
看板。キャンペーンガール気取りです。

 
ユーコン ホワイトホース カヌーピープル 水
ウォータータンクに水を入れて持っていきます。川の水は直接のまず、必ず1分以上煮沸します。このタンクと凍らせたペットボトル入りの水を3リットルほど持っていきました。

 
ユーコン ホワイトホース カヌーピープル
バランスが悪くならないように荷物を積みます。今淳ちゃんが持っているのが防水バッグ。真ん中の緑のバッグもそうです、奥が、冷蔵庫代わりのクーラーボックス。

 
ユーコン ホワイトホース カヌーピープル パドル
パドルの使い方を習います。練習はほとんどこれだけ。そうそう、手前がやっさん。
初登場です。

 
ユーコン ホワイトホース カヌーピープル
出発前にやっさんと記念撮影。左の緑のTシャツの女性が純子さん、初登場です。
左後ろの青年は、自転車をカヤックに積んで旅していました。

 
ユーコン ホワイトホース カヌーピープル ハクトウワシ
出発して早々現れた、ハクトウワシ。
アメリカの国鳥ですが、本土ではもうほとんど見ることができないそうです。ユーコン川では何度もみることができます。デカイ!旅の最後で淳ちゃんは、遠くに立つ白い帽子をかぶって黒いジャージを着た人間を見て「ハクトウワシや!」と叫んでいました。

 
ユーコン ホワイトホース カヌーピープル ハクトウワシ
けっこう前後の距離があるので、慣れないうちはものの受け渡しもこんな感じです。
右後ろはハクトウワシを観察しているドイツ人。ドイツとスイスからは直行便があるので、たくさんの人が来ています。

 
ユーコン ホワイトホース カヌーピープル カヤック 休憩
初めての休憩。
長靴があってよかったーという瞬間です。

 
ユーコン ホワイトホース カヌーピープル クマ キャンプ
1日目のグッドキャンプ。
クマ除けのために食料とテントは最低100 メートルあけることにしています。

 
ユーコン ホワイトホース カヌーピープル テント 鳥
テントの近くにあった卵。
お母さんは水辺を歩く時、お尻をプリプリあげるので「おしりプリプリ鳥」と名付けられていました。卵をさわってみたのですが温かくてカンドー!




▼PART8 2004.07.17 涙のレイク・ラバージュ 〜ユーコンリバー300キロ[3]
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